懲罰室


沙希が懲罰室の存在を知ったのは、高校に入って半年たった頃のこと。
高校生になったばかりの生徒達は、最初こそ大人しく学生生活を過ごすのですが、半年過ぎたあたりから学校生活にも慣れ始め、友達を作り、それぞれの高校生活を楽しみ始める。
最初は気を張っていた沙希自身も、新しい生活に慣れ始め、少しずつダラけ始める・・・
沙希の中学時代はというと、俗に言う「遅刻常習者」。
沙希は、容姿もよく、男子からも女子からも好かれるタイプで、運動も得意とし、人気のある生徒でしたが、担任の先生だけは違いました。
担任の先生は、沙希の遅刻に対して、叱ることもせず見て見ぬふりでした。
遅刻だけではなく、授業中におしゃべりやお菓子を食べていても、勝手に早退して年上の彼氏と遊んでいても、先生は沙希のことを「無視」し、見て見ぬふりでした。
用は、面倒な生徒にはかかわりたくないタイプ。
結局沙希は、担任の先生に一度も怒ることなく「いない存在」として扱われたまま中学を卒業していきました。
 
そんな沙希でしたが、新生活がスタートするというきっかけを機に、遅刻や生活態度を改めようと決心し、高校生活をスタートしました。
沙希の行っている高校(私立)は、女子高で、先生もほとんどが女性。
中には男性の先生もいたのですが、数は圧倒的に女性が多い学校でした。
そんな中、沙希の担任はたまたま男性教師で、名前は「井上」先生。
生徒の間では「イノッチ」と呼ばれていて、優しくてどこか頼りなく、いつも笑っている先生でした。
 
ある日、今まで頑張っていた遅刻を、ついにしてしまう・・・
昨日の夜遅くまで、友達とカラオケをしていた影響で、朝起きるのがとても面倒くさくなり、一度は時間通りに起きたものの、
「まぁいっか・・・」
と沙希はアラームを切り、二度寝をしてしまう。
途中沙希の部屋に来て、母親が起こしにくるも
「うるさいな〜、ちゃんと行くからだまってて!!」
と逆ギレして布団に入る。
その姿を見た母親は
「いい加減にしなさい!!」
と沙希の掛け布団を思いっきり引っ張り上げ、沙希を無理矢理起こす。
無理矢理起こされて「ムッ」ときた沙希は、母親の言うことに一切言葉を発せず、無言で支度をし、家を出ました。
 
時間を見ると、急げば学校にまだ間に合う時間。
しかし、沙希は、朝の母親の態度に腹を立てており、
「素直に行くもんか!ちゃんと行くって言ったのに!!」
とふて腐れながら、わざとゆっくり歩き、結局学校に30分遅刻して行く事に。
 
教室に着くと、丁度ホームルームが終わりそうなところで、沙希は何食わぬ顔で、教室の扉を開け、自分の席へ座る。
これは、中学のころからの遅刻の行動。
中学の先生はいつも沙希が入ってきても、言葉もかけず、授業を続けていたから。
その調子で、席に座った沙希だったが、黒板の前で立って話していた「イノッチ」が、
「蛯原(沙希)!30分も遅刻じゃないか!!どうしたんだ??」
と、少し真面目な顔で、沙希に問いかける。
沙希は「面倒くさかったから」なんて言い訳をするはずもなく、とりあえず無言。
「どうしたんだと聞いてるんだ!!」
普段ヘラヘラしている「イノッチ」からの質問に、沙希はイラっとし、
「何となくだよ!」
と少しなげやりな態度で返答する。
すると、「イノッチ」は
「何だその態度は!お前放課後、教室に残れ!!」
と少し怒りながら居残りの宣告をする。
沙希は「母親からイノッチまでうるさいな〜」と相変わらずふて腐れた感じで宣告の返事はせず、無視をする。
教室の空気が少し張り詰めていく。
そのままホームルームも終わり、「イノッチ」が教室から出て行く。
「イノッチ」が教室から出て行くと、教室の空気は、一気に休憩時間モード。
沙希は、昨日一緒にカラオケしてた友達たちと軽く挨拶し、話をし始める。
「なんかイノッチ怒ってたね〜」
「沙希も何だかカッコよかったよ♪」
「でも沙希、遅刻大丈夫なの?」
「平気でしょ〜♪」
「イノッチ調子に乗りすぎでしょ」
などと、「イノッチ」談義が始まる。
そして一日の授業が始まりまり、放課後へ・・・
 
一日の終わりのホームルームが終わりかけたころ、「イノッチ」から
「今日遅刻した蛯原(沙希)。この後残れ」
との釘を刺す言葉で沙希は忘れていた「イラついた」感情が沸々と湧き上がってくる。
沙希は、居残りなどする気もなく、さり気なく帰ってしまおうと計画していたところに、「イノッチ」からの一言。
「では解散」という「イノッチ」の言葉で、皆が帰り支度をし始め、支度ができた生徒からどんどんと教室を出て行き、沙希も帰り支度をして、あとは「イノッチ」との「話し合い」を終わらせるだけとなりました。
沙希も、いつも一緒に帰っている沙希の友達たちも、そんなに長い話になるとは思っていなく、友達たちも一緒に教室に残り沙希を待つことに。
 
教室には、「イノッチ」と沙希、そして沙希の友達2人だけが残る。
すると「イノッチ」から
「これから生徒指導室で話をするからそこの2人は帰っていいよ」
と友達たちはその場から帰らされ、とうとう教室には「イノッチ」と沙希だけとなりました。
「今日、遅刻したよな?」
「・・・」
「よし、それじゃ、生徒指導室に行くぞ。かばん取って来い」
「はぁ?ここでいいじゃん、話なんて」
「いいから取って来い!」
沙希は、しぶしぶ「イノッチ」の言うとおり、自分のかばんを持って、「イノッチ」と共に、2階の一番奥にある「生徒指導室」に行く事になりました。
 
 
生徒指導室に入ると、そこには2人掛けのソファーが向かい合うように2つ置いてあり、後は端に机とイスが置いてる、とてもシンプルな部屋でした。
奥には書類棚と、ロッカーも見える。
「まぁ座れ」
沙希はかったるそうにソファーに腰掛け、その向かい側に「イノッチ」が座る。
ソファーの座り心地はとてもよかったが、沙希は早く帰りたいのと、「イノッチ」の言うことを聞いているのとでイライラが募っており、一秒でも早くそのソファーから立ち上がり、部屋を飛び出したかった。
そんなイライラしている沙希を知ってか知らずか、「イノッチ」は話し始めました。
 
「蛯原。今日30分遅刻してきたけど、何かあったのか?」
イノッチは、決して怒り口調ではなく、どちらかというと心配そうな口調で問いかける。
「別に・・・」
沙希は真剣に答えよとはせず、流すような返答。
「30分も遅刻してきたんだから、何か理由があるだろ?」
「面倒くさかったからだよ!!うるさいな!!」
と叫びたい気持ちを押さえ、沙希は
「いや、何となく体調が悪くて・・・」
と、適当な理由を答える。
「そうか。それだったら、学校に親から連絡してもらうか、生徒手帳に親から遅刻の理由を書いてもらわないと、今回の遅刻はカウントされてしまうぞ?」
「は?カウント??」
「そうだ。遅刻のカウント、知らないのか?」
「そんなの知らないけど・・・、カウントしてどうするの?内申点とかに影響するとか??」
「お前、本当に知らないんだな。入学の際に、ちゃんと説明してくださいと、ご両親には伝えてあるはずなんだけど・・・。生徒手帳に詳しく書いてあるから読んでみな」
沙希は、ブレザーのポケットから一度も出したことの無い生徒手帳を取り出す。
一度も開いていない生徒手帳は新品同様で、本来なら、中に顔写真を張らないといけないのだが、それすらしていませんでした。
そんな手帳を見ていくと、「誓約」の項目部分で細かな誓約内容の記載を発見する沙希。
どうやら、沙希の入った高校では、入学の際に、学校側と生徒側の間で細かな誓約書が交わされているらしく、この誓約に同意していることが入学の条件となっているようでした。
沙希は、このことはまったく知らされておらず、たった今、こんな誓約があることを知る。
その誓約とは登校時間から生活態度のこと、服装のことやら届け出の内容など、こと細かく記されいましたが、「イノッチ」が
「特別指導の部分を見てみろ」
とのことで、沙希はその記載部分を見つけ、読むと、
【以下の行為については、特別指導を行います。】
1.度重なる遅刻(年3回まで【特別指導内容】1.とし、4回以降は【特別指導内容】2.とする)
2.暴力行為・いじめ
3.故意による器物破損(過失のときは、速やかに届けること)
4.学校職員の指導・注意に従わないとき、またが同じ指導・注意が度重なるとき
5.法律を犯す行為(未成年者の喫煙行為、飲酒行為など)
6.学校の秩序を乱す行為
7.教師が特別指導が必要と判断する行為
【特別指導内容】
1.学校規定に基づく体罰を行う
2.停学(停学中は学校規定に基づく体罰を行う)
3.退学(上記1.2.を拒む、または停学を繰り返す)
と書いてあり、先は「度重なる遅刻」の部分を読み返す。
「年3回とか書いてあるよ・・・」
沙希は、最初学校に入って、感じていた。
「この学校の生徒は優秀だな〜」と。
みんな登校時間の15〜20分前に登校して、遅刻する子なんて一人もいなかったこと。
授業中の悪ふざけなどもあまりなかったこと。
最初だからかと思っていたが、これで納得いった。
皆、入学前に、この誓約のことを聞かされていたんだ・・・。

そうすると、今回私って「【特別指導内容】1.学校規定に基づく体罰を行う」になるってこと??
沙希は、「イノッチ」の言っている意味がやっと理解できました。
遅刻のカウントがされると、体罰が執行されること、3回遅刻すると、停学になること。
私はそのカウントを1つ増やしてしまったこと・・・。
「イノッチ、この『学校規定に基づく体罰』ってどんな罰なの??正座とか?校庭のグラウンドを何週するとか?それとも放課後居残り掃除とかかな?」
沙希は、自分に降りかかってきている「学校規定に基づく体罰」の内容が気になり、不安になる。
先ほどまでの苛立ちなど、どこかえ消え、今は、自分の置かれた状況を理解し、整理するので頭がいっぱいとなっている。
混乱している沙希をみて、「イノッチ」は
「学校規定に基づく体罰も、生徒手帳に乗ってるよ」
と、少しかわいそうな感じで話す。
急いで生徒手帳を確認すると、一番最後のページにその「学校規定に基づく体罰」は載っており
【体罰規定】
1.遅刻について 懲罰室にて尻を籐鞭10打(2回目20打、3回目30打)
2.暴力行為・いじめについて 懲罰室にて尻を籐鞭50打
3.停学について 懲罰室にて尻を籐鞭100打(停学中1日100打)
4.その他について 指導内容を基に、学長と決定する
と書いてありました。
 
とすると、私は「懲罰室にて尻を籐鞭10打」に該当するってこと??
沙希は不安げな表情で「イノッチ」を見ると、
「やっとわかったみたいね。要するに遅刻の罰を受けるんだよ」
と、「イノッチ」はちょっとイジワルな感じで、不安がる沙希に告げる。
「ちょ、ちょっと待って、私、この誓約なんて知らないし、」
「そもそも籐鞭って何?尻を打つって体罰じゃん!!教師がそんなことしてもいいの??」
「セクハラでしょ。こんな誓約無効でしょ!!」
と、「イノッチ」に食って掛る沙希。
すると、「イノッチ」は、
「ちょっと待ってろ」
と言って、生徒指導室にある書類棚に行き、何やら探し始める。
その間、沙希は思いつく言い訳を思いつくだけ頭の中から搾り出し、戻ってくる「イノッチ」にぶつける用意をする。
しかし、その言い訳なども「イノッチ」が持ってくる一枚の用紙によって、まったく効果の無いものとなる。
「イノッチ」が差し出した一枚の用紙。
それは「誓約書」となっており、誓約書の内容は、先ほど生徒手帳で確認した内容がびっしり書いてある。
そんな内容は今はどうでもよい。
問題なのは、署名欄。
その署名欄には、両親の名と共に、「蛯原 沙希」という署名が手書きで書いてあり、私の何と拇印(指の押印)まで押してある。
そういえば、入学する前に、母親に提出書類で必要だって言われて、詳しく内容を見ないまま拇印したことがあった・・・
あれって、こんな書類だったんだ・・・
その書類の最後の欄には、
「その誓約を破棄するものは、当校の生徒である資格を失う」
と書いてある。これって辞めろってことでしょ。
 
その場から逃げ出したくなっていた沙希を、この書類が足止めする。
逃げ出したら、退学。
退学は絶対にヤダ。
沙希には目標があった。
中学の時に付き合っていた彼氏は、高校中退。
朝から晩まで働いて、自分と会える時間も限られていた。
その彼氏からの言葉。
「何があっても高校は卒業しろよ。欲を言えば大学も行け」
「俺、高校辞めてすごく後悔してるから・・・」
普通に生活していれば、高校なんて卒業できるものだと思っていた。
ある程度ダラけていても、自由に生活していても、卒業なんて余裕だと思っていた。
そんな沙希を見かねて、母親は、この学校に入れたのかもしれない。
今までの生活態度を更生させる意味でも・・・。
それにしてもヒドイ。
 
そんな思いを頭の中で巡らせ、呆然とする沙希。
すると「イノッチ」から
「要するに、悪い事したら怒られるってことだよ。素直に罰を受けなさい」
という、救いの言葉?とどめの言葉?を受け、ふと我に帰る沙希。
そうか、体罰に我慢すればまだ平気なんだ。
沙希の発想は、「どうやって状況を抜け出そうか」から「どんな体罰を我慢すればよいのか」に切り替わっていき、「イノッチ」に体罰についての質問をここぞとばかりぶつける。
「籐鞭って何?ムチなの?痛いの?お尻は?スカートの上から?誰が叩くの?懲罰室って?耐えられる??」
矢継ぎ早に質問する沙希をみて、自分の置かれた状況に気がついたと確信した「イノッチ」は
「遅刻の1回目から3回目までは生活指導の先生が執行人。懲罰室にある、お仕置き台にうつ伏せになって下着の上から執行することになると思うよ」
「げっ!生活指導の先生って「沖田」のこと??」
「うん。「沖田」先生」
この「沖田」先生、生徒の中では怖いと評判の生活指導の女性の先生。
保健体育の教師兼生徒指導の先生として日頃から生徒を厳しく指導しており、ソフトボールの顧問も勤める。
ソフトボールの部員が、怒鳴られながら先生にビンタを受ける光景は、学校では珍しくなかったのです。
「うわ〜。で、お仕置きって、お尻を叩くの?鞭で?」
すでに軽く恐怖を感じている沙希は、質問を続ける。
「そう。お尻叩きだね。籐材でできた、棒みたいな鞭でお尻を叩かれるんだよ」
イノッチは少し顔を曇らせながら説明をする。
「っていうか、私、今まで一度も手を上げられたことなんてないんだけど!」
「何でこの歳になってお尻を叩かれなきゃいけないの!!」
「ありえないんだけど!!」
沙希の中で、抑えていた感情が、少し流れ出て、「イノッチ」にぶつかる。
「遅刻したのは蛯原だろ!遅刻はいけないことなんだよ。今までは怒られないできたとおもうけど、それがいつまでも通用すると思うな。ここで気がついて、将来はちゃんとした大人になってほしいんだよ」
急に熱く話し出した「イノッチ」に沙希は少し面食らいながらも、
「確かに遅刻したことは悪いけど、何もお尻を叩くことないじゃん」
と、普通の子が考える正論を述べる。
「確かにね。自分もそう思うんだよね」
「生徒を体罰で抑えつけるのは、自分としても間違っていると思うんだ」
先ほどまで熱くなったと思ったら、今度は、急に冷静になり、沙希に思いを話し始める。
自分は体罰には反対だということ。
今までたくさんの生徒が、この体罰に耐えられず辞めていったこと。
学校の考え自体がおかしいと思うこと。
しかし自分の立場もあるということ。
そして、「イノッチ」から
「だから、本来なら、私が蛯原を沖田先生のところへ連れて行き、罰を執行してもらうんだけど、今回だけは見逃してやる。そのかわり、明日、生徒手帳に今日遅刻した適当な理由をお母さんに書いてもらってハンコをもらってこいよ。それが無いと、つじつまがあわなくなるからな」
思ってもいない展開に、沙希は困惑し、
「え?いいの??大丈夫なの私?」
「ああ。私の気が変わらないうちに、今日は帰りなさい」
 
「やった〜♪ラッキー」
と喜ぶ沙希でしたが、ふと冷静になって考える。
今まで、誰も怒ってくれなかった。
みんないつも許してくれた。
そして今回も許される。
私は本当にこれで良いの??
 
先ほどまで嬉しそうに喜んでいた沙希が、急に静かになったのに気がつき、
「ん?どうした??」
と、不思議そうに声をかける「イノッチ」。
 
「いや・・・」
と言葉を濁す沙希。

「ん?」
 
「う〜ん・・・、実は・・・」
と沙希は今日遅刻した本当の理由を、「イノッチ」に話し始めた。
夜遅くまでカラオケしていたこと。
朝起きるのが面倒くさかったこと。
親の態度にイラついてわざと遅刻したこと。
沙希も話をしながら、次から次へと出てくる自分の正直な内容や気持ちに驚きながらも、自分の中で抱えている思いすべてを「イノッチ」に話した。
なぜか「イノッチ」なら聞いてくれる気がした。
今まで怒られたことがないこと。
人が困るようなことをわざとしてきたこと。
今、自分がよくわからなくなっていること。
怒られる恐怖から逃れられた喜びと、それを素直に受け止められない自分。
少し残念に思う自分。
「イノッチ」は何も言わずに、じっと沙希の話を聞いていた。
沙希は、自分の思いをすべて話し終え、すっきりした面持ちで「イノッチ」を見る。
すると「イノッチ」から
「そうだね。今回は、悪い事したことには変わりはないから、やっぱり罰が必要だね」
イノッチからの発言は、決して沙希を頭ごなしに抑えつけるものではなく、どちらかというと、優しさを感じるものでした。
沙希の思いを聞き、体罰を否定する「イノッチ」が自分の考えを抑え、心を「鬼」にして言ってくれた言葉。
「うん。私、自分がしたこと良くないと思う。だから罰受けるよ」
「でも、学校からの罰としてではなく、今回は、『イノッチ』からの罰を受けたいな」
沙希の中で、罰を受けるという気持ち。
「イノッチ」の中で、学校の体罰に不満を持つ気持ち。
その両方が沙希の頭の中で交わりあった結果が、「イノッチ」からの罰でした。
 
「イノッチ」は、少し驚いた様子で、
「え?私ですか?」
「うん。井上先生から罰を受けたいです」
「やっぱり叱られるんなら、ちゃんと話を聞いてくれて、自分のことを思ってくれる人に叱られたいから」
「イノッチ」は少し嬉しそうな顔をごまかしながら、
「私からの罰、痛いですよ〜。わざと遅刻してくる子なんて許しませんから」
と、沙希の要望を受け入れる。
「え〜、厳しいならやっぱり罰受けるの止める」
「もうダメですよ。自分が悪い事したこと、認めたでしょ」
「認めたけど、体罰反対だって聞いたよ〜」
「学校の刑罰みたいな体罰に不満があるだけで、ちゃんと生徒のことを思っての体罰は賛成なんです」
「なんかズルいんですけど」
そして「イノッチ」は、真面目な顔をして
「今回、なぜ罰を受けるか、もうわかってるよね?」
と沙希を見る。
沙希も、先ほどのようにふざけてではなく
「はい。わざと遅刻してしまい、反省しています」
と返す。
「それじゃ、籐鞭の体験をしてもらいましょうね」
と軽く笑いながら「イノッチ」。
「え゛っ・・・」
「『え゛っ』じゃないでしょ、もともと受ける予定だったんですから」
「だから、私、今までお尻なんて叩かれたこと無いって言ってるじゃん・・・」
「蛯原は、今回自分がした事、ちゃんと反省しているんだよね?」
「ん・・・、まぁそうだけど・・・」
「じゃあ、ちゃんと受けられるよね?」
「それとこれとは話が別だと思うんだけど・・・」
「お仕置きです」
「はい・・・」
 
ソファーに座っていた「イノッチ」は立ち上がり、生徒指導室の奥へ消えていく。
少しすると、「イノッチ」が戻ってきて、その手には、「ステッキ」?「杖」??みたいな棒を持っており、それが生徒手帳に書いてある「籐鞭」でした。
長さは60cmくらいでしょうか。
持つところがUの字に曲がっており、一見すると杖みたいなんだけど、曲げるとよくしなる。
沙希から言えること。
それは「これはお尻を叩く道具では無い!」ということ。
沙希の中では、鞭のイメージとして、フニャフニャの皮製で、あまり痛くなさそうな感じだったのですが、これは凶器。こんなんでお尻を打たれたら・・・。
籐鞭を見て、完全に引いている沙希を見て、「イノッチ」は
「どうする?やめとく?」
とここでも救いの手を差し伸べてくれる。
沙希は思わず「やめとく!」と言いそうになった自分を抑え、
「ううん。がんばる」
と逃げそうな自分の逃げ場を無くす。
「私、どうすればいいの?」
「うん。とりあえず向こうのイスのところに行こう」
二人は、生徒指導室の奥にあるイスのところまで行き、
「それじゃ、このイスに手をついて、脚は曲げないでね」
教室のイスと同じイスで少し低く、脚を曲げずに手をつくと、お尻が少し突き出す格好になりました。
沙希は、初めてのお仕置きと、恥ずかしい格好にドキドキしながら、言われたとおりにイスに手をついてお仕置きをます。
「スカート、上げるよ?」
「えっ?スカート上げるの?下着見られるの??それはムリ!!!」
沙希は慌てて姿勢を戻し、「イノッチ」のほうを見て許しを請う。
「やっぱり抵抗あるよね。スカートの上からにしよう」
イノッチは相変わらず「優しい」。
このまま駄々をこねれば、そのまま見逃してくれる。
でも、それじゃダメなんだ。
それじゃいつまでたっても変われない。
沙希は思い切って
「私、やっぱり下着でお仕置き受ける。実際は下着の上からなんでしょ?なら下着の上から受けないと」
イノッチは、少し考えた後、
「大丈夫?ちゃんと受けれる?」
沙希は「はい」と答え、もう一度イスに屈んだ姿勢に戻る。
実はこの時、沙希は制服のスカートをかなり短くしており、イスに屈んだ姿勢をとっている段階で、ほとんど下着が見えていた状態だったのには「イノッチ」は何も触れず。。。
「それじゃ、スカート上げるよ。」
イスに屈んだ沙希のスカートが上げられ、背中の上に捲り上げられる。
色白のお尻をピンクの下着が包み込んでいる。
沙希は、無言で、イスに屈んだままでしたが、恥ずかしさから両耳が真っ赤になっており、「イノッチ」にもその気持ちが伝わってきました。
同情する気持ちを抑え、気持ちを切り替えて、遅刻の罰です。
 
お尻を出した沙希の斜め後ろに、「イノッチ」が立ち、
「それじゃ、はじめるよ」
「はい・・・」
「もう遅刻はしないようにね」
「はい・・・」
「10回ね」
「わかりました・・・」
 
沙希は大人しく罰が始まるのを待ち、「イノッチ」は沙希の突き出したお尻の中心に狙いを定める。
沙希は初めてのお仕置きに、恐怖と、恐怖とは違う「何か」を感じ、ドキドキする。
少しの間が空き、「ビュン!」と張り詰めた空気を切り裂く音と共に、「ビシッッ!!」という乾いた音が沙希のお尻の上で弾け、生徒指導室に響き渡る。
「イッタ〜イ!!!」
乾いた音と、ほぼ同時に、遅刻したことに対して罰を受けている子の悲鳴が生徒指導室を通り抜け、廊下まで響き渡る。
幸い、時間も遅かったので、周りには誰もいなかったのが救いでしたが、初めて受ける、お尻への強烈な痛みに、沙希は思わず飛び跳ね、両手でお尻をかばう。
あまりの痛みにその場でじっとしていることができず、その場で足踏みをしながらお尻を擦る。
沙希の正直な感想。
「耐えられない」
これがあと9回も?
ムリだよ。
絶対に耐えられない。
形振り構わず、下着の上からお尻を擦り続ける沙希。
「少しぐらい手加減してくれてもいいじゃん!!」
悔しいことに、自分の目から涙が出ていることに今更ながらに気づき、恥ずかしながら下を向く。
「これでも手加減しているつもりなんだけどね。沖田先生の罰は、こんなもんじゃないよ・・・」
「十分痛いよ。どこが手加減してるのよ。ヒドイ」
沙希は、あまりの痛みに少し興奮気味に「イノッチ」に当たる。
「イノッチ」は静かに沙希が落ち着くのを待つ。
沙希の中で、「お尻の痛み」と「遅刻した自分の反省」を交互に考える。
しばらくすると、お尻の痛みも落ち着き、冷静に自分が悪い事をしたと思えるようになる。
そして、また恐怖の姿勢へ戻る沙希。
イスに手をついて、次の罰を待つ。
「悪い事をしたんだから、その分、しっかり罰を受けないとね」
「わかってるよ、そんくらい!」と心の中で叫ぶ沙希。
 
籐鞭2回目。
先ほど打たれたお尻の中心から、少し下を叩かれる。
「ビシッッ!!」
やはり耐えられない・・・。
悲しくも無いのに涙が出てくる・・・。
もちろん悲鳴も上げ、その場で足踏みもした。
イスに手なんてついていられない。
一秒でも早く打たれたお尻の皮膚を擦りたい。
「井上先生。痛いです」
沙希からはいつも強気で元気な面影はまったく感じられず、涙を流しながら「イノッチ」に正直な思いを告げる。
「自分のしたことは、こういうことなんだよ」
沙希にはわかっていた。
「イノッチ」も「イノッチ」なりに、心を「鬼」にしてお仕置きしてくれていることを。
でも痛すぎるよ・・・、耐えられない・・・。
「たかが遅刻くらいでこんなに厳しくしなくても」
という雑念が、沙希の頭をよぎる。
そのたびに、沙希は自分に言い聞かせ「悪いのは自分、悪いのは自分」と気持ちを落ち着かせる。
それにしても井上先生、本当に手加減してるのかな。
今の井上先生は本当に「鬼」に思える。
 
ヒドイ痛みに興奮した気持ちを落ち着かせ、再度イスに手をつく。
次のお仕置きを待つ、静かな時間。
生徒指導室の外からは、ソフトボール部の練習の声や、吹奏楽部の練習の音が聞こえてくる。
誰も私が今、遅刻の罰を受けているなんて知らない。
先生と私しか知らない。
そんな空間を切り裂くような、恐ろしい音。
籐鞭を振り下ろす「ビュン!」という音。
今の沙希は、この音を聞くだけで、泣いてしまうかもしれない。
なぜなら、この音の後には、必ず耐えようの無い痛みが、お尻を襲うからだ。
「ビシッッ!!」
「アゥ!!」
あまりの痛みに自分でも何て叫んだのかわからない声が、自然と出る。
あんなに細い棒なのに、お尻全体に伝わる激しい苦痛。
お尻が痛いはずなのに、なぜか体全体が痛む。最後に頭の中が真っ白に。
自分のお尻を擦ると、痛みは治まる。
だが、治まったと思うと、ジンジン・・・。
このころから、沙希は声を出して泣き始める。
「ウッ、ウッ・・・」と肩を震わし、興奮した自分を落ち着かせる。
何も言葉は発しない。
でも、沙希の姿を見ていれば、沙希が今、自分の中で戦っているのがよくわかる。
「お仕置きから逃げ出したい自分」と「お仕置きをちゃんと受けられる自分」。
高校1年生で、今まで怒られたことがない子が、ここまで厳しくお仕置きをされ、涙を流す。
正直「イノッチ」にも限界が近づいていた。
「もう終わりにしよう」
いつでも「イノッチ」は言える。
でも、沙希のがんばる姿を見ると、自分からは言えない。
沙希もがんばってお仕置きに耐えているんだ。
人目も気にせず涙を流し、下着の上からお尻を擦る沙希。
 
籐鞭4回目
やっとの思いで、高ぶる気持ちを抑えた沙希は、お仕置きの定位置に戻り、お尻を出す。
ピンクの下着に包まれていて、お尻の状態は確認できないが、間違いなく3本くっきりと蚯蚓腫れができている。
その腫れに重ならないように、「イノッチ」は籐鞭を振り下ろした。
「ビュン!」
「ビシッッ!!」
「ア〜〜〜〜〜!!!」
沙希は泣き叫びながら飛び跳ね、両手をお尻に当てる。
この行動はずっと変わらず。
沙希はもうしゃべる元気もなく、泣きながら残るお尻の痛みに耐える。
その場で立っている事もやっとで、体は震えていた。
打たれる場所が、お尻の中心から、少しずつ下にずれて行き、痛みも増していく。
「イノッチ」はそのことを知っている。
沙希が、どれほどの痛みに耐えているかもよくわかる。
全身から汗が噴きだし、顔も真っ赤。目も涙で濡れ、赤くなっている。
それでも沙希は戦う。
「お仕置きから逃げたい自分」と。
本当は、この場から走り去りたい。
「イノッチ」にお願いしてお仕置きを止めてもらいたい。
でも、それじゃ今までの自分と一緒じゃん!
少しでも「逃げる事」を考えてしまっている自分に腹を立てながら、懸命にイスに手をつき、お尻を出す。
 
籐鞭5回目
溢れ出てくる涙と、興奮する感情とで、体が震え、お尻も震える。
度重なるお尻の痛みに、なかなか冷静になれない沙希。
それでも頑張ってお尻を出す。
「いくよ」
イノッチの言葉に、沙希は震えながらうなずく。
色を茶色に染めた沙希のセミロングの綺麗な髪が上下に揺れる。
「ビュン!」
生徒指導室の空気を切り裂く。
「ビシッッ!!」
弾ける。
「ア゛ァ〜〜〜〜〜!!!」
今までで一番大きな悲鳴を上げ、沙希はその場に泣き崩れました。
「あ〜〜!!!」
お尻に手を当て、泣き続ける沙希。
「イノッチ」はとうとう限界を超え、
「よく頑張ったね。今日はこれで終わりにしよう」
イスの下に座り、体を震わせ、声を出して泣いている沙希の肩を抱き、優しく言う。
沙希は、制服の上からでもわかるくらいの汗をかき、体は震えていました。
そして、沙希は、抑えていた自分の感情を全て吐き出すように
「ごめんなさい。遅刻してごめんなさい。本当にごめんなさい」
と「イノッチ」の胸に飛び込み、声を上げて泣いた。
「イノッチ」は沙希が落ち着くまで、優しく背中をさすり、
「うんうん。よくがんばった」
 
沙希は、涙も止まり、落ち着きを取り戻したのですが、しばらく「イノッチ」
から離れませんでした。
最初は見逃してくれようとしたこと。
私の話をちゃんと聞いてくれたこと。
厳しく怒ってくれたこと。
最後まで温かく見守ってくれたこと。
本当にうれしかった。
 
沙希は感じていた。
今まで自分がどんなに悪いことをしても怒ってくれなかった両親や中学校の先生とは違い、「イノッチ」は自分なりに心を「鬼」にして自分を叱ってくれたことに、喜びを感じているということ。
 
お仕置きも終わり、ソファーの上に座る沙希。
向かいに「イノッチ」は
「ちゃんと反省した?」
「はい。イヤってほど反省させられました!」
「もう同じ事繰り返さないようにね。今度繰り返したら10回だからね」
「わかってますよ〜」
沙希はお仕置きからの恐怖から解放された反動からか、少しおちゃらけた態度をする。
「本当にわかってるの?」
「わっかてるよ、しつこいな〜」
「それにしても、お仕置き厳しすぎじゃない?可愛そうとか思わないの?」
「蛯原〜」
「冗談ですよ、冗談♪」
「じゃ、今日はこれでお仕置き終わり。帰ってお尻冷やしなさい」
「は〜い。お尻痛くて明日遅刻しても、怒らないでくださいね♪」
「コラ〜」
「ハハハ〜」
笑いながらソファーから立ち上がり、生徒指導室を出るとき、沙希は、「イノッチ」に対して
「今日はありがとう♪本気で怒ってくれて、うれしかった」
と笑顔で挨拶し、生徒指導室を出ました。
 
お仕置きは痛かったし、辛かった。
でも、なぜか心は晴れやかで生徒指導室に入る前のイライラしている自分はどこかに消えて、すっきりした沙希でした。
 
でも、廊下を歩いていると、何だかお尻に違和感が・・・。
恐る恐るお尻に手を当ててみると、お尻にボコッと何か堅いものができている。
急いで女子トイレに駆け込み、周りに誰もいないことを確認して、お尻を鏡に写してみる。
すると、沙希のお尻全体が真っ青に腫れ上がり、お尻の中心は内出血を起こしていました。
さっきのボコッっとしたのは、籐鞭で腫れ上がった部分でした。
「あのやろう・・・どこが手加減したんだ」
沙希は、お仕置きから解放されたことをいいことに、言いたい放題。
真っ青に腫れたお尻を優しく触りながら、どこか安心している沙希。
私、怒られたんだ・・・
胸の奥でジーンとなる思いを噛み締めながら、ゆっくり下着を上げ、帰ることに。
 
たった5回のお仕置きでしたが、沙希にとっては大事件でした。
鏡を見るまでは、普通に歩けていたのですが、真っ青に腫れたお尻を確認してからは歩くたびにお尻に鈍痛が走るようになり、廊下も変な歩き方になる。
この姿をみられたら、結構ハズいな・・・。
一人で、笑いながら、よちよち歩いて帰る。
下駄箱につき、靴を出して履こうとするも、お尻が痛くてうまく履けません。
「くそ〜、あのイノッチやろう・・・」
そんなことを言っている自分になぜか喜びを感じながら、何とか靴を履き学校を出る。
すると、正門のところで、2人の生徒がこっちに向かって手を振っているのが見える。
「沙希〜」
「え?まさか??」
それは、同じクラスの、昨日遅くまでカラオケ行っていた友達たちでした。
居残りさせられてから、3時間近く経つのに・・・。
「沙希〜、遅かったじゃ〜ん。イノッチに何かされた?」
「うんうん、いやらしいことされたとか?」
「目とか赤いけど、泣かされたの?」
沙希は、心配する友達たちをみて、お仕置きのときとは違う涙がこみ上げてくるのを必死に堪え、
「大丈夫!ちょっと叱られただけだよ!待たせてごめんね!!」
厳しくお仕置きされて、胸のどこかにポッカリと空いた穴を、友達たちが埋めてくれました♪
ポッカリと空いた穴・・・。
寂しかったのかな。
沙希はお尻の痛みを我慢し、友達たちと、笑いながら(泣きながら)帰って行きました。



 
 


Mart

 
 



Mart様より
 
初めて書いてみました。
今回、懲罰室へは行きませんでした。
次は懲罰室編にトライしてみます。

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