お花見 | |
春爛漫、桜満開。 世間は自粛ムードだけど、そんな中、美しく咲き誇る桜は不安を抱えた心を和ませてくれる。 日本人でよかったって、あらためて思わせてくれる。 前向きに生きることの素晴らしさを教えてくれる。 お花見 本当は今日、恭介とお花見に行く約束をしていた。 最近は忙しくて、お休みでも一緒にいられない日が続いたから楽しみにしていたのに、 また、急な仕事が入りキャンセルに・・・ 「すいません、京子、せっかく約束していたのに・・・この埋め合わせは必ずしますから。」 申し訳なさそうに言って、すまなそうな顔をする恭介を見ていたら いつもみたいに拗ねたりできなかった。 心の中ではかなりがっかりしてたけど、大人の振りをして笑顔を作って 「仕事だもん、仕方ない。」 精一杯の強がりを言った。 恭介は一瞬、びっくりしたような顔をして、その後とても嬉しそうに 「京子、大人になりましたね。いい子です。」 そう言って、何度も何度も頭を撫でてくれた。 ひとりでお昼ご飯を食べて、読みかけのミステリーを読んだり、お気に入りの音 楽を聴いてみたりしたけど、 時間がいつもの2倍にも3倍にも感じられてつまらない。 きっと、恭介は、代役で頼まれた講演が終わったあと、食事会があって、 お酒飲んでくるに違いない。 もしかしたら、今日中に帰ってこないかもしれない。 そうだ、ひとりでお花見に行こう♪ 外はすでに暮れなずんでいて、 夜ひとりで出かけてはいけませんよ・・・っていう恭介の言葉を思い出したけど、 ちょっとくらいいいよね?? でも、そんな甘い考えがそもそもいけなかった。 ひとりで電車に乗って、目的地まで行く。 節電と震災の影響で、人影はまばら・・・ それでも、満月が映し出す桜は闇に白く浮き上がり、生ぬるい風が吹き抜けると、 ひらひらひら・・・・薄紅の花弁がゆっくりと舞って地に落ちる。 幻想的で神秘的で、時間が経つのも忘れて桜のシャワーの中をゆっくりと歩いた。 途中でおまわりさんに高校性と間違えられて、 「早くウチに帰りなさい。おうちの人が心配するよ。」 なんて言われたけど、はい≠チて返事をしてやり過ごした。 そのころ、恭介がどんな思いをしていたかも知らずに・・・ さずがに歩き疲れて携帯を見ると、何と時間は11時過ぎ。 何度もメールやら着信が入っていた。 もちろん恭介から。 「今どこにいるんですか?連絡ください。」 何度も何度も同じメール。 それを見てちょっとマズイかなって思ったけど、美しい桜の余韻が残っていて 気持ちは不思議なくらい落ち着いていた。 さっき見た美しい光景を直接恭介にお話したくて、「今から帰るね。」とだけ返信した。 駅に着き、マンションに近づくと、入り口のところで待っていたらしい恭介が走って来る。 そばまで来ると、ハアハアと荒い息を立てこちらを見下ろした。 「ただいま、きょうす・・・・」 上機嫌で言いかけたが、その言葉も終わらぬウチに すごい形相の恭介がいきなり大きな声で怒鳴って右手を振り上げた。 「貴女って子はいったい何処に行っていたんですか?!!」 「キャアッ!!」 ぶたれる・・・咄嗟に頬を押さえて横を向いたけど、 一向に落ちてくる様子がなかったのでおそるおそる顔を上げると、 その手は中に止まっていて、恭介は深呼吸するとゆっくりと右手を下ろした。 「僕としたことが感情に任せて顔を叩いてしまうところでした。」 気持ちを鎮めるように言うと、今度は私の右腕を掴み無言で歩き出す。 お尻をぶたれたことはあっても顔をぶたれたことは今まで一度もない。 その恭介が手を上げるなんて・・・ 呑気に夜桜見物しているウチに大変な状況になっていたことを知り蒼褪める。 どうやって言い訳しよう・・・ 部屋に着くまでの間、そんなことばかり考えていた。 |
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引き摺られるようにリビングに連れて来られると、 恭介は疲れきった様子でどっとソファーに腰掛けた。 気まずい雰囲気の中、何て言ったらいいのか分からず言葉を捜して目が泳ぐ。 「どこへ行っていたんです??こんな時間まで。」 「どこって・・・えっと・・・」 さっきよりは落ち着いたように見えるけど まだまだお怒りモードだってことは声のトーンで分かる。 綺麗だった桜のこと、恭介にお話するのを楽しみにしていたのに 何故か正直に言うのが躊躇われた。 「言えないような場所に行っていたんですか?」 「そうじゃないけど・・・ちょっとお花見に・・・」 「ひとりで??しかもこんな遅くまで??」 「うん・・・」 「はぁ、まったく、呆れてものが言えません。」 「・・・」 「貴女がひとりで淋しい思いをしてると思って、食事会も飲み会もキャンセルして 早々に帰って来たんです。ところが何処を探してもいない。ケータイに着信入れても 返信もない。僕がいない間に事件にでも巻き込まれたかと思ってどれだけ心配したか。 今日中に連絡がつかなかったら警察に捜索願出すつもりだったんですよ!!」 そんなことになっていたとは露知らず、ひとりでのんびりお花見して 浮かれてた自分が何だか情けなくなってきた。 恭介がどんな思いをしていたか考えもせず・・・ 「ごめんなさい。。」 「ごめんなさいで済むと思っているんですか?!」 かなり大きな声で言われビクっとして思わず顔を上げる。 「まったく、貴女にもしものことがあったらと思うと生きた心地がしませんでしたよ。」 「ちゃんとね、夕方までウチで大人しくしてたの。でも、ひとりだと何をやっても つまらないんだもん。それにどうせ恭介遅くなると思ったからちょっとだけと思って・・・」 「だったら、何故先に連絡くれないんです?メールで一言言ってくれればそれで済むでしょう??」 「恭介がね、帰って来るまでには戻って来るつもりだったの。ホントだもん・・・」 「せめて居場所くらいは知らせなさい。この間のような地震があったら、連絡も 取れなくなってしまうんですよ。」 「はい・・・」 「京子、夜ひとりで出かけてはいけないって何度も言いましたよね?? どうして約束が守れないんです??」 「約束破ったのは悪かったけど、もう小さな子供じゃない・・・ ちょっと出かけるくらい平気よ。」 つい言ってしまった本音。 恭介は足を組み替えて、呆れたように大きく息を吐く。 「京子は何もわかってない。小さな子供じゃないから危ないこともあるんです!! 力ずくで乱暴されたらどうするんです??何の抵抗もできませんよ!! もう少し、自分を大切にしなさい。」 そう言われてハッとした。 自然と涙がポロポロ零れ落ちる。 「約束は守れない、門限も守れない、こんな時間まで何の連絡もなしにほっつき 歩いて心配かけて。少しは大人になったと思ってたのに全然ダメですね!」 全然ダメ・・・恭介の言葉が胸に突き刺さる。 もっと早く帰ってくればよかった・・・ ううん、お花見なんて行かないでウチで大人しく待ってればよかった・・・ 「ごめんなさい。。」 「京子、悪い子はどうされるんです?」 「・・・」 「黙ってないで答えなさい。」 「・・・」 「答えなさい!」 「お尻・・・ぶつの?」 「何故疑問形なんです??当然でしょう。これだけ心配かけたんですから。」 「・・・」 「京子、僕は今までで一番怒ってます。何故だかわかりますね?」 小さく頷く。 「だったら、自分でお尻出してここへ来なさい。」 恭介は組んでいた足を元に戻すとポンポンと軽く膝を叩いた。 「恭介、ごめんなさい・・もうしないから」 「もうしないは何度も聞きました。口先だけのごめんなさいは聞きたくありません。」 キッパリそう言われてガックリ。 今まで何度も叱られたけど、今日の恭介はいつもとは違って怒りのオーラが その綺麗な黒い瞳から読み取れる。 でも、自分でお尻出すなんてできない・・・ 立ったままグズグズしていたら、痺れをきらせた恭介にふいに腕を強く掴まれた。 「イヤ〜ン!!」 反射的に抵抗してしまったけど、あっけなく膝の上に乗せられてしまって・・・ 「今日は簡単には許しません。僕がどれだけ心配したかしっかり反省しなさい。」 そう言うと、スカートが捲り上げられた。 背中に裾がフワリとかかりお尻がスースーする。 恭介は下着を太腿まで下げると大きく右手を振り上げた。 ピシャァーーーン!!パッシィーーーン!!ペッシィーーーン!! ピシャァーーーン!!パッシィーーーン!!ペッシィーーーン!! ピシャァーーーン!!パッシィーーーン!!ペッシィーーーン!! 始めから加減なしに叩かれて思わず声が出そうになるのをじっと我慢した。 恭介は無言で手を休めることなく叩く。 ピシャァーーーン!!パッシィーーーン!!ペッシィーーーン!! ピシャァーーーン!!パッシィーーーン!!ペッシィーーーン!! ピシャァーーーン!!パッシィーーーン!!ペッシィーーーン!! たてつづけに叩かれ、我慢も限界。 「あ〜ん、いたあーーい!!」 1度言葉にしてしまうと歯止めが効かなくなりお尻を手で庇ってしまう。 「京子、手でお尻を庇ったらあぶないでしょう?」 「だって、痛いんだもん!!」 「手をどかしなさい。」 「ヤダ・・・どかしたらまたぶつもん。」 「仕方ありませんね。じゃあ、太腿を叩きます。」 「イヤぁ〜!!」 言い終わらぬウチに平手が左の太腿に降ってきた。 ピシャァーーーン!! 「いったぁーーーーい!!」 あまりの痛さに仕方なく手をどかす。 右手を背中に押さえつけられ庇うものを失ったお尻に恭介の右手は 容赦なく痛みを降らせる。 「うわ〜ん、ごめんなさ〜い!!ごめんなさ〜い!!」 これしか許してもらう術を知らなくて何度も何度も謝った。 「キチンと反省してますか?」 「はんせい・・してる・・・」 「もう約束破ったりしませんね?」 「もう絶対しない。ごめんなさ〜い・・・ごめんなさ・・・い・・」 ピシャァーーーン!!パッシィーーーン!!ペッシィーーーン!! ピシャァーーーン!!パッシィーーーン!!ペッシィーーーン!! ピシャァーーーン!!パッシィーーーン!!ペッシィーーーン!! 何度も何度も謝ってるのに、何度も何度も叩かれてやっと許してもらったときは お尻は桜色どころじゃなく、真っ赤に腫れあがっていた。 「痛かったですね。もうお仕置きはお終いです。」 「私ね、恭介が心配してるなんて、全然気に留めてなかったの・・・自粛しなき ゃいけないのに浮かれてたの・・ごめんなさい・・・」 「京子、何故ひとりで夜出かけることを禁止しているのか分かりますか??」 「危険なことから私を守るため??」 「その通りです。約束にはね、みんなそれぞれ理由があるんです。どうでもいい 、破ってもいい約束なんてないんですよ。 自分を大事するということは、僕のことも大事にすることと同じなんです。特 に今はこんな状況で夜も閑散としてるんですから。」 「恭介・・・」 「わかってくれたら、二度と今日のような真似はしないでくださいね。」 「はい。」 「いい子ですね。」 そう言って、恭介が優しい笑顔に戻ったから、つい気持ちが楽になり言ってしまった。 「恭介・・・ホントはね、お花見行ったこと、黙ってようと思ってたの。」 せっかく和んだ恭介の笑顔が5度下がる。 「うん??どういうことですか??僕にウソをつくつもりだったんですね。」 「えっ、そうじゃないけど・・・」 「そうじゃなかったら、何です??そんな悪い子はもう一度やり直しです。」 「や〜ん、ヤダヤダヤダーー!!」 必死に暴れたけど、膝の上にひっくり返されスカート捲られて下着を上げてないお尻を ピシャァーーーン!!パッシィーーーン!!ペッシィーーーン! 痛いの3つ・・・ 「他に隠してることはありませんね??」 「もうない・・・グスッ・・・」 そんな風に問い詰められたら何も言えないよ。 おまわりさんに高校生に間違えられたなんて。 「そうだ京子、明日はどうします??」 「お尻痛いし、どこにも出かけたくない・・・」 「じゃあ、ウチでもう一度、節電の方法と被災地の方々に僕たちが何ができるかを 考えましょう。」 「うん、それいいかも。」 そして、二人で考えた結果、500円玉貯金をして毎月義援金に役立てることと、 子供たちに絵本を送ることに決まった。 恭介と私にできることは微々たるものだけど、それでもみんなで頑張れば大きな 力になることを信じて。 そう言えば、恭介がこんなことを言ってた。 何でも、新聞に載っていたとか・・・ 「人の生命を救うことは美しい。 しかし、それは善意や情熱のみで実現できるとは限らない。 高い知性や冷静で柔軟な思考を伴ってはじめて、その営みは美しい果実となる。」 難しいけど、何となく分かるような気がした。 だから、今の私に出来ることを考えてみた。 それは・・・ 心から想うこと 一生懸命祈ること 精一杯生きること まずは、ちゃんと約束を守って、叱られないように心配かけないように頑張らなきゃ・・・ 凛として美しい桜のように・・・ END Nina 拝 被災者の方々があれほどの不幸に見舞われながら、 前を向いて立ち上がろうとする姿、日本人として限りなく誇りに思います。 一日も早い復興を心よりお祈りしております。 |