執事とお嬢様 X(早坂先生編)
 
 
 
 
「クリスマス・コンサート??」
 
「ええ、僕の知り合いの音楽家数人で企画してるんですが、紗雪さんも一緒に参加しませんか??」
 
「う〜ん、でもみんなプロの演奏家の方なんでしょう??」
 
「そんなことはありませんよ。ヴァイオリン科の学生も参加しますし。」
 
「どうしようかな・・・」
 
「ここのところ、発表会も出ていなかったし、上達を披露するよい機会だと思いますよ。」
 
「わかりました。参加させていただきます♪」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                    執事とお嬢様 X(早坂先生編)
 
 
 
 
 
 
 
 
早坂先生から誘われたクリスマス・コンサートは12月23日で、
当日、私が演奏する曲も決まった。
 
 
 
「紗雪さんのピアノの音はキラキラしているから近代ものでドビュッシーなんか、どうですか??」
 
 
 
早坂先生の勧めから、1曲はドビュッシーの「ベルガマスク組曲」の中から「月の光」を選曲。
もう1曲は、クリスマスキャロルのメドレーを先生と連弾で弾く。
 
 
はじめは、はりきって毎日練習していたけど、ここのところ、最初の勢いはどこへやら・・・
 
 
だって、譜読みばっかりでつまらないんだもん。
特に「月の光」はフラットがいっぱい付いてて面倒だし・・・
 
 
今日はレッスンがあるというのに、前回のレッスンからはじめてピアノの蓋を開ける有様。
 
 
先生がお見えになるまでに、まだ時間があるわ・・・
何とか右手だけでも譜読みしておかなければ・・・
 
 
でも、インスタントで練習したなんてこと、先生が見破れないはずなかった。
 
 
しどろもどろの演奏に、横に座った先生の溜息が聞こえてきそうで、ビクビク・・・
黙っているから余計に気になって、間違えなくてもいいところで間違える。
 
そして、ついに・・・
 
 
 
「紗雪さん、先週、僕がどんな課題を出したか憶えていますか??」

「月の光の譜読みを片手づつしっかり練習することと、メトロノームを使って両手でゆっくり練習すること・・・」
 
「わかっていて練習をしていないんですね。」
 
「・・・少し風邪気味だったの。今も少し熱っぽくて・・・」
 
 
 
 
藤崎さんと違って早坂先生なら、そんな言い訳も通用すると思った。
 
 
コンコンと咳なんかしてみる。
ちらっと上目遣いに先生のお顔を見て、
 
 
無理はしないでくださいね・・・
 
 
なんて、優しい言葉を待っていたのに・・・
 
 
ふいに長い右手がスーッと伸びてきて、私の額に当てられた。
ひんやりした先生の手・・・
 
それだけでもドキドキなのに、眼鏡の奥の澄んだ瞳でじーっと見下ろされたら、
何故だか胸が俄かにざわめきだして、全てを見透かされているようで目を逸らさずにはいられなかった。
きっと嘘はバレバレ・・・
 
 
 
 
「熱なんかありませんね。風邪気味も嘘でしょう??」
 
「・・・」
 
「まったく、ずい分と見くびられたものですねぇ。僕ならそんな言い訳が通ると思いましたか??
 いつものレッスンなら兎も角、今回は舞台に立って大勢の観客の前で演奏するのですから、
 のんびりしているわけにはいかないんですよ。ちゃんと言われたことをやっていないと先へ進めません。
 時間を無駄にするだけです。」
 
 
 
 
困ったような呆れたような、いつもとは違うキツメの口調できっぱり言われてしまい、
図星なだけに言葉がでない。
 
 
 
 
「黙ってるってことは、嘘を認めるってことですね。」
 
「だって・・・譜読み、つまらないんだもん・・・」
 
 
 
 
何だか巧みな誘導尋問??に、つい、本音を言ってしまい、
あわてて左手で迂闊なくちびるを抑える。
 
 
 
「やっぱりね。」
 
 
 
今日の先生はいつものニコニコ優しい先生とは違う。
やたらと、突っ掛かってくる感じで、何となくいや〜な予感がした。
 
 
 
 
「紗雪さん、貴女は僕のことを甘くみているようですが、大学ではこれでも厳しい講師で
 有名なんです。『鬼の早坂』ってね。」
 
「鬼の・・早坂・・・??」
 
「さて、どうしましょうか。罰としてお尻を叩きましょうか。」
 
「えっ、イヤ・・・・」
 
 
 
 
いつものクセ??で、咄嗟に手を後ろに回してお尻を庇った。
そんな私を見て先生はクスクス笑いながら、蒼褪めるような言葉を口にした。
 
 
 
 
「イヤじゃないでしょう??僕に叱られるのがいやなら、藤崎さんにキツく叱ってもらいますか??」
 
「ふ、藤崎さん?!もっとイヤよ!!」
 
 
 
 
全然練習していなかったこと、藤崎さんが気づいていないはずはない。
早坂先生の手前、敢えて口を出さないだけ・・・
 
きっと膝の上に乗せられて、お尻が真っ赤に腫れ上がるまで叩かれるに決まってる。
ううん、またあの棒で叩かれるかもしれない。
想像してたら、変な汗が滲んできた。
 
 
そんなことはお構いなしに、
 
 
 
 
「さあ、立ちなさい。しっかり反省してもらいますよ。」
 
「今度からキチンと練習する・・・だからお尻・・・イヤ・・・」
 
「ダメ!!レッスンのたびにこの調子では先が思いやられますからね。」
 
 
 
 
そう言って、先生は私の左腕を取り引っ張りあげた。
 
 
ピアノの椅子に両手を付く姿勢にさせれらて、数回お尻を叩かれる。
でも、服の上からだったから、我慢できそう・・・
そんな甘いことを思っていたら、先生の手がスカートを捲り上げた。
 
えっ??
 
 
後ろを振り向きながら、捲り上げられたスカートを元に戻そうとしたら、
右手を掴まれてしまい、下着が下ろされそうになる。
 
 
 
「イヤ〜ン、エッチ!!」
 
 
 
掴まれた右手を渾身の力で振りほどき、先生と正面から向かい会う形に
身体を半回転させた。
 
 
ここで駄々捏ねれば、何とか逃れられるかもしれない・・・
 
 
先生は左手の中指で眼鏡を上げながら、やれやれとばかりに溜息を吐いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「エッチねぇ・・・貴女って子は痛い思いをしないと分からないんですね。」
 
 
 
いい終わらぬウチに再び腕を掴まれ、椅子に座った先生の膝に体ごと乗せられた。
 
有無を言わさず、スカートが背中の方まで捲り上げられ、
ちょっとだけ強引に、先生は下着を足の付け根まで下げた。
 
覆うものを失くしたお尻を手で庇おうとするけど、上半身が低く傾いていて手がうまく回せない。
仕方なく、足をバタバタさせたら、
 
 
パッシー−ーン!!
パッシーーーン!!
 
 
両足の太腿を思いっきり叩かれた。
 
 
 
 
「いったーーい!!」
 
「暴れても無駄ですよ。これでも力はありますから。」
 
「先生、お願い・・・今度からちゃんと練習するから今日は許して。」
 
 
 
 
後ろを振り向いて、すがるように頼んでみたけどあっさり断られた。
 
 
 
「また、同じことを繰り返さないためにもしっかり反省しましょう。」
 
 
 
先生はもう一度、抱えた私の腰をしっかり逃げられないように押さえつけると、
軽くペシペシとお尻を叩いた。
 
そして、そのうちに・・・
 
 
パッシーーーン
ペッシーーーン
パッチーーーン
 
 
パッシーーーン
ペッシーーーン
パッチーーーン
 
 
痛いのが降ってきた。
 
 
「いったーーーい!!!」
 
 
あまりの痛さに思いっきり声を出してみるけど、先生はまるで無視。
 
 
 
パッシーーーン
ペッシーーーン
パッチーーーン
 
 
パッシーーーン
ペッシーーーン
パッチーーーン
 
 
「うわーん、いたぁーーーい!!」
 
 
 
藤崎さんの平手のお仕置きもそれはそれは痛いけど、早坂先生も同じくらい痛い・・・
スレンダーな身体のどこにこんな力があるのかと、不思議に思うくらい。
 
 
足を思いっきりバタバタさせて暴れたけど、、今度は右足で両足を押さえ込まれてしまい
身動きが取れない。
 
 
「ごめんなさーーい、先生、ごめんなさぁーい!!」
 
 
パッシーーーン
ペッシーーーン
パッチーーーン
 
 
パッシーーーン
ペッシーーーン
パッチーーーン
 
 
キズの付いたCDみたいに、繰り返しごめんなさいを言うけど、一向に許してくれなくて、
最後は涙まじりの掠れた声になり、何度も何度も謝った。
 
 
 
「ご・・ごめんなさ・・・い・・・ちゃんと練習するから、もう許して・・・せんせい・・お願い・・・」
 
 
 
その声にやっと先生の右手が止まった。
 
 
 
「ちゃんと反省しましたね??もう、練習をサボるなんてことしませんね??」
 
「はい・・・」
 
 
 
念を押された後、優しく抱き起こされて、さっきまで先生が座っていたピアノの椅子に座らされた。
叩かれたお尻が痛い・・・火照ってジンジンして・・・
 
 
顔を上げられず下を向いたまま黙っていると、大きな右手が左のほっぺに触れてそっと上を向かされた。
 
 
ひんやりしていたはずの掌は、私のお尻と同じように火照っていて、その熱が直に伝わってくる。
痛いのは私のお尻だけじゃない・・・先生の右手も同じように痛いんだって・・・
 
 
 
 
「紗雪さん、舞台に立つということは、生やさしいものではないんですよ。たくさんの方がお金を払って聴きに来るんです。
 来て下さった方に満足して貰えるよう最高の演奏をしないとね。
 いい服を着て舞台に立つのは一見華やかに見えますが、常に自分との戦いなんです。」
 
「せんせい・・・」
 
「しっかり練習して、一人でも多くの方が楽しみ、希望を持てるような演奏をして欲しい。
 貴女なら出来るはずですよ。」
 
「本当に私でもできる??」
 
「もちろんです。でなきゃ、はじめから誘ったりしません。」
 
「最初はね、頑張って練習していたの。でも、だんだんつまらなくなってしまって・・・」
 
「あはは、初見でスラスラ弾ける人なんて滅多にいません。僕も含めてね。
 どんな大曲でも、みんな譜読みからはじまるんです。
 『千里の道も一歩から』って言うでしょう??片手ずつの譜読みをしっかりすることが上達への一番の近道なんです。」
 
 
 
 
先生の声は、高からず低からず、調度よい高さですんなりと浸透してくる。
 
その声を聞きながら、いつもいつも大事なところで頑張れない、自分に甘い自分が情けなかった。
そして、舞台で演奏するということを深く考えもしなかったことが堪らなく恥ずかしかった。
 
 
 
 
「当日は藤崎さんや晃彦君、お友だちも聴きにくるんでしょう??
 最高の演奏をして、みんなを驚かせてやりましょう。」
 
「はい・・・」
 
 
 
お返事したあと、
 
 
 
「先生・・・ごめんなさい。」
 
 
 
今日はじめての、心からの「ごめんなさい」を言った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
それからは、時間を惜しむようにたくさんたくさん練習した。
藤崎さんが、心配するくらい・・・
 
 
早坂先生からも、
 
 
「月の光、いい感じに仕上がってきましたね。クリスマスキャロルは細かいことは気にせずに
 楽しく弾きましょう。」
 
 
 
 
 
そして、12月23日・・・コンサート当日。
 
 
 
「さあ、紗雪さん、出番ですよ。深呼吸して肩の力を抜いて、思いっきり楽しんできてください。
 自分を信じて。」
 
 
先生の言葉に無言でうなずく。
 
 
 
世界中の人に分け隔てなく降り注ぐ柔らかで暖かい「月の光」・・・
そんなイメージで弾いた。
心をこめて・・・
 
 
最後は、先生とクリスマスキャロルのメドレー。
先生が隣にいるから、安心して自由に弾けた。
陽気に楽しく・・・
 
 
 
 
会場いっぱいに鳴り響く拍手・・・
たくさんの方の笑顔が目に飛び込んでくる。
 
こんな満たされた思いを今まで感じたことがあったかしら。
途中で投げ出していたら、こんな気分は味わえなかった。
 
練習サボって、都合のいい言い訳をして、先生にお尻叩かれて、泣いて、ごめんなさいして・・・
たった数ヶ月前のことが、昨日のことのように思い出される。
 
 
私の曲への思いを尊重してくれて、自信を持たせてくれた先生。
 
夜遅くまで練習していた私を、起きて待っていてくれた藤崎さん。
 
紗雪なら出来るよ・・・って、ずっと励ましてくれた晃彦さん。
 
 
 
会場にいる全ての方と、支えてくれたみんなに心から感謝したい。
 
 
 
メリークリスマス♪♪
 
 
世界中の人に素敵なイブが訪れますように・・・
 
 
 
 
 
END
 
 
Nina拝
 
 
 
 
 
 
 

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