紳士な彼氏と冷やしうどん
 
 
 
 
「お願いよ。ちゃんと自分でやるから。」
 
「ふうむ・・一人で暮らすってことは、思っているよりずっと大変なことなんだよ。」
 
「それはわかってる・・・わかった上で、こうしてお願いしているの。」
 
「そこまで言うなら仕方ない、私からご両親に頼んでみるか・・・」
 
「ホント??」
 
「りえの頼みじゃ、無下にできないからね。」
 
「わぁ〜、※聖生さん、ありがとう〜」
 
 
 
 
※としき
 
 
 
紳士な彼氏と冷やしうどん
 
 
 
 
 
 
 
一人暮らしをはじめて数ヶ月が過ぎた。
 
確かに、思っていたよりずっと大変で、何もかも自分でやらないとお部屋は散らかるし、
お風呂だって、今までのように帰ったらすぐに入れるわけじゃない。
 
朝食も、今までは何もしなくたって、テーブルに用意されていたのに、
1分・・・ううん、1秒を争う忙しい朝に、自分でコーヒー淹れて、パンを焼かなければ食べられないなんて・・・
 
そして、何より、仕事で遅くなった日、真っ暗な部屋に帰らなければならないのが、とても、淋しい・・・
 
 
そんなことは、百も承知だったはずよ。
 
 
でも、近頃は何もかも面倒になってしまって、お洗濯は一週間にまとめて1回か2回、
食事もスーパーやコンビニのお弁当にすっかり頼ってる。
 
できる限り、自分で料理するって約束だったのに・・・
 
このことについては、聖生さんに2回ほど叱られて、お尻痛くされたけれど、
少し経つと元に戻っちゃうんだもん。
 
 
そこのところ、もっとわかってくれてもいいのに・・・
 
 
今週も、あっという間に週末になってしまい、クタクタで何か作ろうなんて気には少しもならず、
コンビニに寄って冷やしうどんを購入♪
最近は、ずっとこの冷やしうどんにお世話になってる。
 
いつもの様に、真っ暗なお部屋に戻り、明かりを点けて、お着替えして、テレビをつけて、
 
 
いただきま〜す♪
 
 
食べようと思ったら、ピンポンが鳴った。
 
 
いったい誰・・・もう、9時を過ぎてるのに・・・
 
 
確認すると、聖生さんだった。
今日来るなんて、一言も言っていなかったのに・・・
 
 
 
「仕事が思ったより早く片付いてね。」
 
「そう・・・入って。」
 
「りえの顔が見たくて、メールする時間も惜しんで車を飛ばしたよ。迷惑だったかい??」
 
「レディーの部屋に予告もなく現れるのは、紳士のすることじゃないわ。」
 
「おいおい、痛いとこ突くね。」
 
「ウソよ。来てくれてうれしい。」
 
 
 
うれしいけど、やっぱり来るならメールくらいして欲しい。
そしたら、少しはお片づけしておいたのに。
 
 
 
「今、お茶淹れるね。」
 
「食事は会社で済ませてきたから、お構いなく。ところで・・・」
 
「うん??なに??」
 
「今夜のりえの夕飯は、この冷やしうどん??」
 
 
ギクッ・・・!?
 
そうだ、食べようとしてたとこへピンポンが鳴って・・・
 
 
「う、うん・・・週末で疲れちゃって、コンビニで買っちゃったの。昨日まではちゃんと自分で作ってたのよ。」
 
 
慌てて、その場を繕う。
 
だって、このことでは聖生さんに散々叱られてきたから・・・
 
本当は、お料理したのなんて、いつのことだったか忘れてしまうくらい、
毎日、コンビニの冷やしうどんやおそうめんばかりだったのに・・・
 
 
 
「で・・・、昨日は何を作って食べたの??」
 
「えっ、き、きのう??えーっと、そうそう、昨日はオムライスを作ったの。」
 
「上手くできた??」
 
「まあまあ・・・だったかな・・・卵に包むのが上手くいかなくて・・・」
 
「じゃあ、今度、私にも食べさせてくれる??」
 
「もちろん。あっ、この間は肉団子作って、その前はえっと・・・」
 
「りえ・・・」
 
「な・・なあに??」
 
「いい加減にしなさい。」
 
 
 
聖生さんの、その一言で、ハッとした。
 
自分でも気付かないくらい自己弁護して、その場限りのウソ吐いて・・・
でも、もう手遅れ・・・
 
 
「そこへ座りなさい。」
 
 
言われた通りに座ったけど、彼のお顔がまともに見れない。
だって、同じことで叱られるの、3度目なんだもん・・・
 
 
「顔を上げて。」
 
「・・・」
 
「顔を上げなさい。」
 
 
 
ゆっくり項垂れた頭を持ち上げると、聖生さんの優しいお顔が目に入ってきた。
穏やかな表情をしているけれど、きっと心の中は怒り心頭しているにきまってる。
 
 
 
「りえ、私は何度も同じことを言うのは好きじゃない。」
 
「・・・」
 
「この冷やしうどん、いつから食べてるのか、正直に言いなさい。」
 
「今日だけよ・・・ホントよ。」
 
 
 
言えない・・・ずっと前から、ほとんど毎日のように食べてるって・・・
お料理なんか全然してないって・・・
 
 
 
「この後に及んで、よくもそんなことが言えるね。」
 
「だってね、忙しくて時間なくて・・・クタクタで・・・」
 
「言い訳はいい。キッチンを見れば、料理をしてるかしてないかくらいわかる。私の目は誤魔化せない。」
 
「・・・」
 
「そうやって、ダンマリを決め込めば、それで私が許すと思ったら大間違いだよ。」
 
「ごめんなさい・・・」
 
「今更謝っても遅い。私が何故、出来るだけ食事は自分で作りなさいって言ってるのか、わかる??」
 
「一人暮らしを始めるとき、ちゃんと自分でやるって言ったから・・・」
 
「確かにそれもある。でも、それだけじゃない。掃除や洗濯は少しくらいしなくたってどうってことないが、 食事はそういうわけにはいかない。りえ、今、君が食べてるものが5年後、10年後の身体を作るんだよ。」
 
「10年後・・・??」
 
「そう、先の話だと思うかも知れないが、今のままの食生活をしていたら、10年後はどうなってると思う??」
 
 
 
聖生さんの言ってることは、現実離れしていて、急には想像できない。
でも、このままの生活を続けていたら、心にも身体にもよくないことだけはわかる。
 
 
 
「よくわからないけど、いい状態ではないと思う・・・」
 
「そうだね、きっと心も身体もボロボロになって疲れ果ててるだろう。私がそれを望むと思う??」
 
「ううん・・・」
 
「りえには、いつまでも元気で輝いていて欲しい。今現在もこれからも。」
 
「としき・・・さん・・・」
 
「それと、もうひとつ。コンビニやスーパーの弁当を買うなと言ってるわけじゃない。本当に疲れて何もしたくないときは、それもいいだろう。私が言いたいのは、りえには、安易に楽なほうへ流されて欲しくないってことなんだよ。」
 
 
 
聖生さんのお説教は、どれも至極尤もで、私のことを思ってくれているのに、
考えもせず、毎日、面倒がってた自分がとても弱い人間に思えて、
気がつくと涙がポロポロこぼれていた。
 
 
 
「さて、泣くのはまだ早い。約束守れない子はお仕置きだよ。ここに来なさい。」
 
 
ソファに座って、両手で膝をポンポンと叩いている。
 
でも、自分から行けない・・・行きたくない。
そのまま下を向いていたら、右手が伸びてきて、膝の上に乗せられた。
 
 
「イヤぁ〜!!」
 
 
自分が悪い子だってわかってるけど、でも・・・お仕置きはイヤ。
怖いし痛いもん・・・
 
そんな気持ちはお構いなしに、聖生さんは、スカートを捲くり下着を下げると
大きく手を振り上げた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
パッシィィィーーン!!
 
 
「いったぁぁぁーーいっ!!」
 
 
いつもなら、最初は優しくしてくれるのに、今日は全然違う。
はじめから、手加減なしのが降ってきて、手が勝手にお尻を庇いに行く。
 
 
「あぶない!!手をどかしなさい。」
 
「どかしたら、また叩くでしょう・・・??」
 
「叩かれるのは、誰が悪いの??私は意地悪でこんなことしてるんじゃない。」
 
「・・・」
 
 
仕方なく、手を下ろして前でギュッとグーにする。
 
 
パッシィィィーーン!!
ピッシャァァーーン!!
パッシィィィーーン!!
 
 
しばらく叩かれたあと、正座させられた。
お尻がジンジンして痛い・・・
 
 
「そのまま待っていなさい。」
 
 
そう言うと、すっと立ち、少しして、手に筒状の図面を入れるカバンのようなものを持って
戻ってきた。
 
 
「これからたくさん泣いてもらうよ。覚悟しなさい。」
 
「えっ・・・??終わりじゃないの・・・??」
 
「まだまだ、これからが本当のお仕置きだよ。」
 
 
言ってる意味がよくわからず、キョトンとする私の前で、聖生さんは筒の中から
竹の棒のようなものを3本取り出した。
 
太さは違うけど、どれも60cmくらいあって柄が黒くなっている棒・・・
 
 
「さあ、ソファに手をついてお尻をだしなさい。」
 
 
そう言われて、はじめてこれから何をされるのかわかった。
彼は・・・聖生さんは、シュッシュッと素振りをしている。
 
 
「いや・・・」
 
 
抵抗しても反抗しても無駄だってわかってるけど、無意識に言ってしまう。
 
 
「ほら、ぐずぐずしないで立つ。」
 
 
ジンジンしてるお尻を棒でペシペシされて、ソファに手をつく姿勢にさせられた。
叩かれる前から、怖くて怖くて腰が引けてしまう。
 
 
「ここからは、今までの甘いお仕置きとはわけが違う。覚悟しなさい。」
 
 
言い終わると、今までとは比べ物にならない痛いのが飛んできた。
 
 
ピッシィィィィーーン!!
 
 
「うわ〜ん!!いたぁぁぁぁぁーーーい!!」
 
 
死にそうなくらい痛い・・・
 
 
「立って。」
 
 
ピッシィィィィーーン!!
ピッシィィィィーーン!!
ピッシィィィィーーン!!
 
 
今度は、手でお尻を庇うこともできない間隔で叩かれて、我慢も限界。
 
 
「もうイヤ・・・立てない・・・」
 
 
しゃがみこんだまま、泣きながら言ってるのに、
聖生さんは、それでも、手を掴んで私を元の姿勢に戻そうとする。
 
 
「いやぁ〜、放して!!なんで、なんでこんなに厳しいの??もうイヤ・・・」
 
 
私が悪いってわかってるけど、こんなの厳し過ぎる・・・
 
必死で抵抗してみたけど、力で敵うわけもなく、
すぐに、元に戻されて、庇いに行けないように両手首も掴まれて、
 
 
「まだまだ反省してないようだね。反省してたら、そんな言葉はでないはずだ。」
 
 
ピッシィィィィーーン!!
ピッシィィィィーーン!!
ピッシィィィィーーン!!
 
 
「いったぁぁぁぁーーい!!もう、いやぁぁぁぁぁーー!!ごめんなぁぁぁぁーーい!!」
 
 
ピッシィィィィーーン!!
ピッシィィィィーーン!!
ピッシィィィィーーン!!
 
 
「あぁぁぁーーん!!ごめんなぁぁぁぁい!!」
 
「何がごめんなさい??」
 
「・・・」
 
「わからないならわかるまでお仕置きだよ。」
 
 
思考回路がショートしてしまって、もうよくわからない・・・
 
 
ピッシィィィィーーン!!
ピッシィィィィーーン!!
ピッシィィィィーーン!!
 
 
「うわぁぁぁぁぁん、ごめんなさぁぁぁぁーーい!!ご・・めんな・・・さい・・・」
 
「何が悪くて叱られてるの??」
 
「ちゃんと・・・しな・・かった・・から・・・」
 
「違う。」
 
 
ピッシィィィィーーン!!
ピッシィィィィーーン!!
ピッシィィィィーーン!!
 
 
 
「うわぁーーーん!!毎日、コンビニの冷やしうどん食べてたから・・・」
 
「他には??」
 
「ほかに・・・??」
 
「なんで、ケインでこんなに厳しくお仕置きされてるのか、その理由を訊いてるんだよ。」
 
 
ピッシィィィィーーン!!
ピッシィィィィーーン!!
ピッシィィィィーーン!!
 
 
「うわぁぁぁーーん!!ウソ・・・吐いたから・・・」
 
「自分のしたことを誤魔化そうとしてウソつくのは一番いけないことだと、いつも言ってる。」
 
「ごめん・・・なさい・・・」
 
「一度吐いたウソは10のウソに匹敵する。ウソを隠そうとまたウソを吐く。
 自分を誤魔化すのは虚しくないかい??」
 
「・・・同じことで叱られるの3度目だから、呆れられると思ったの・・・約束守れてないから、
 嫌われたらどうしよう・・・って・・・ウソ吐いてごめんなさい・・・」
 
「私はそんなに心の狭い男に思える??」
 
「ううん・・・」
 
「こんなにかわいいりえを嫌いになるなんて有り得ない。呆れるくらいなら、こんなに厳しく叱ったりしないよ。」
 
 
その言葉を聞いたら、ホッとした。
この人は、私の良いところも悪いところも全て受け入れてくれてるんだって・・・
その上で、愛してくれてるんだって。
 
 
「さあ、キチンと反省できたようだから、あと50回我慢しなさい。」
 
 
それから、膝に乗せられて数を数えさせられた。
でも、途中で何回かわからなくなって、やり直しさせられ、結局100くらい叩かれたような・・・
 
そっと触ったら、お尻は感覚がなくなって、パンパンに腫れあがりシコリができてる。
 
 
そのまま正座させられて、仕上げのお説教。
 
 
「りえが仕事を頑張ってること、ちゃんとわかってるつもりだよ。忙しくて時間がないのもわかるし、疲れてるのもわかる。
つい、買ったもので済ませてしまう気持ちもわかる。でも、一人暮らしを選んだのはりえなんだよ。
 時間は誰かに与えられるものじゃなく、自分で作り出すものなんだ。何か出来ない理由に時間がないからとは言って欲しくない。
 それは、自分を正当化し納得させるための、言わば、自己満足な言い訳にしかならないから。わかるね。」
 
「はい・・・最初はちゃんと自分でお料理してたの。でも、要領悪いのかな・・・時間ばかり掛って、思ったように美味しくできなくて、それで、時間ないし楽だし、だんだんと買ったもので済ませるようになってしまって・・・でも、もう一度、頑張ってみる。」
 
「うん、私がしっかり支えるから頑張ろう。よい食生活をしたら、もっともっと綺麗になる。
 自分をもっと大事にしてあげなさい。りえらしくね。」
 
 
聖生さんは、いつも冷静沈着で、どんなときでも感情的になることはない。
その冷静さが、叱られてるときは怖かったりするんだけど。
 
今は優しい私の好きな聖生さんに戻ってる。
だからね、今まで言えなかった本当のことを言ってみた。
 
 
「正直に言うとね、私、お料理、好きじゃないの・・・」
 
「あはは。そうかと思ったよ。」
 
「だって、上手く包丁使えないし、揚げ物なんて、油が跳ねるのがこわいし・・・」
 
「りえ、慣れだよ慣れ。私だって何一つしたことがなかったし、出来なかったが、
 今ではいろいろ作れるようになった。」
 
「私でも、出来るようになる??」
 
「もちろん。ひとりで頑張ろうとしないで、もっと周りを頼りなさい。私でよければ、いつでも手伝うよ。」
 
「ホント??じゃあ、毎日お夕飯作りに来てくれる??」
 
「こらっ、調子にのり過ぎだ。」
 
 
そう言って、おでこをコツンとされた。
 
 
お料理が好きじゃないから・・・時間がないから・・・クタクタだから・・・
 
何かにつけて言い訳ばかりして、都合のいいウソ吐いて誤魔化そうとしていた自分が
とても自己中心的に思えてきて、今更ながら自己嫌悪・・・お尻痛いし・・・
 
下を向いて小さく溜め息をついたら、
 
 
「今まで一番厳しいお仕置きだったと思うけど、よく我慢した。頑張ったね。」
 
 
穏やかな口調で言われたら、おさまりかけてた涙がまたポロポロこぼれだした。
 
 
「もう、泣かなくていい。私にとって、りえは何よりも大事なんだよ。いつまでも美しく、自ら輝く女性でいて欲しい。
 男女問わず、みんなが憧れるようなそんな存在でいて欲しい。りえなら、きっとできるはずだよ。」
 
 
彼の言葉のひとつひとつが私を成長させる・・・
この人がそばにいてくれたら、きっと輝ける・・・
 
 
 
「そうだ、夕飯まだだったね。冷やしうどんが君に食べられるのを待ってる。」
 
 
そういえば、食べようとしてたとこへ聖生さんがやってきて、
妙な展開になり、叱られてお尻痛くされて・・・
 
割った状態の割り箸が無造作に置かれて、冷やしうどんが何だか淋しそうに見えた。
 
 
 
「ねえ、明日の土曜日、二人で何か作りたいな。」
 
「う〜ん、そうだね・・・あさりのスープパスタはどう??」
 
「うん、いいかも。」
 
 
二人でお買い物して、お料理して、美味しく食べて・・・
お尻は痛いけど、何だか明日がとても楽しみ♪
 
 
10年後は、どうなっているかな・・・
 
結婚して奥さんになって、子供がいて、きっと、今より輝いて素敵になってる。
 
紳士な貴方がそばにいてくれるから。
 
 
 
 
 
 
END
 
 
 
 
Nina拝
 
 
 
 

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