僕のSweet Angel
 
 
 
 
 
「カナ、駅まで送ってもらえませんか??」
 
「うん??いいけど、今すぐ??」
 
「貴女の出かける時間でかまいませんよ。」
 
「8時過ぎになっちゃうけど、大丈夫??」
 
「はい、大丈夫です。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                        僕のSweet Angel
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
普段、カナの運転で助手席に乗ることは、ほとんどない。
 
結婚する以前も、そして、結婚してからも・・・
 
今朝はたまたま、直行で客先に行くことになり、いつもより遅く家を出て間に合うので、
カナの出勤時間に合わせて、駅まで乗せてもらうことになった。
 
 
「カナぁ、そろそろ出かけないと遅れますよ。」
 
「は〜い。」
 
 
しかし、出かける時間になっても、スッピンのままでいる彼女に、
 
 
「あれっ、お化粧しなくていいんですか??」
 
 
って聞くと、
 
 
「あとでちゃんとするよ。」
 
「あとでって、もう出かける時間ですよ。」
 
「うん、大丈夫なの。それより、その眼鏡とグリーンのネクタイ、すっごく似合ってる。素敵♪」
 
「ありがとうございます。」
 
 
何だか、体よくはぐらかされた気がしないではありませんが・・・
 
まあ、僕のカナはかわいいから、スッピンでも全然平気なんですけどね。
 
 
そのまま深く気にもせず、二人して車に乗り込んだ。
 
 
最寄の駅まで車で5分弱。
カナの会社まで、だいたい10分かかるかかからないか。
 
家のガレージを出て、左に曲がり大きな通りに出ると、一つ目の信号で引っ掛かった。
 
運転席の彼女を見ると、大きめのバッグの中から、何やらガサゴソ取り出してる様子。
 
 
「カナ、ちゃんと信号見てないと危ないですよ。」
 
「うん、大丈夫。亮くん、見てて。」
 
「・・・??」
 
 
小さいポーチから、何か取り出したかと思うと、
いきなりメークをし始めた。
 
それも、慣れた手つきで。
 
 
「カ・・カナ??あとでするって、こういうことだったんですか??」
 
「うん、いつもの日課なの。」
 
「日課って・・・」
 
「ほらっ、信号、青に変わりましたよ。」
 
「ホントだ。」
 
 
キキキキィィィーーーン!!
 
 
「そ、そんな、急発進したら危ないでしょう??」
 
「大丈夫♪亮くん、騒ぎすぎ。」
 
 
それからも、彼女は信号で止まる度、車が混んでて、ちょっと動かなくなる度に
アイライン引いたり、マスカラ塗ったり・・・
しかも、まあ、器用に・・・
 
隣に乗ってる僕は気が気じゃありませんよ。
 
まったく、事故でも起こしたら・・・
 
たった5分弱の道のりが10分以上に感じられて、
駅に着いたときには、すでに疲労感まで・・・
 
 
カナはと言えば、
 
 
「行ってらっしゃい。」
 
 
車の中からニッコリ手を降ってる。
それも、屈託のない笑顔で。
 
 
まさか、会社までの道のりも、こんなことしてるんじゃないでしょうね。
 
そう思うと、電車に乗ってからも、客先で会議してる最中も、
彼女のことが心配で心配でならなかった。
 
一度、きっちり叱っておかなければ・・・
 
事故を起こしてからでは、取り返しがつきませんからね。
 
 
 
 
 
その日は、早めに帰宅し、夕食の支度に取り掛かろうとしているカナをリビングに呼び、
今朝の一件を切りだした。
 
かわいいカナを叱りたくはありませんが、ここはちゃんと釘をさしておかないと。
 
 
「カナ、今朝のことですが、あんな危ない運転をしているとは知りませんでた。
 明日から運転中のメイクは禁止です。いいですね。」
 
「もう慣れっこだもん、平気よ。」
 
「慣れっこって・・・事故でも起こしたら、どうするつもりですか??」
 
「今までだって、平気だったし、たぶん・・・大丈夫・・・だと思う。」
 
「だと思う・・・って。事故起こしたり警察に捕まってからでは遅いから言ってるんですよ!!」
 
 
ちょっと強めの口調で言ったら、自分のしていることがよくないことだと、
少しは自覚があるのか、彼女はうつむき加減でしょんぼりしている。
 
 
「あのね・・亮くん・・・」
 
「何ですか??」
 
「あの・・ね・・・えっとね・・・やっぱり・・・言いたくない。」
 
「そこまで言っておいてずるいですよ。」
 
「だって、言ったら怒るもん・・・」
 
「いったい何ですか??もったいぶらないで言いなさい。」
 
「だからね、メイクだけじゃなくてね・・・運転しながら、パンとかアイスとか食べたり・・・メール打っちゃったり・・・」
 
「そんなことまでしてたんですか!!」
 
「うぅぅ・・・」
 
 
パン・・・アイス・・・メール・・・
その言葉が頭の中でぐるぐる回って、眩暈がしてきた。
いったいどんな運転してるんだか・・・
 
これでは、事故を起こさないほうが不思議なくらいじゃないですか。
 
僕は溜め息を吐いたあと、左手の中指で眼鏡を上げる。
お仕置き決定ですね。
 
 
 
「カナ、ここへ来てお尻だしなさい。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「・・・お仕置き・・・するの??」
 
「当然です。こんな危ないことする子はみっちりお仕置きです。」
 
「イヤ・・・」
 
「いやじゃないでしょう??」
 
「・・・もう、小さい子じゃないもん・・・お尻叩かれるなんてイヤ・・・」
 
 
 
カナは不安げな顔をしてこちらを見つめていたが、
そんな目をしても、今日はダメです。
二度としないと約束できるまで許しません。
 
 
僕は、グズグズ言っているのを無視し、合い向かいに座った彼女の傍まで行くと、
少し抵抗する手首を掴み横抱きし、思いっきりお尻を叩いた。
 
 
「イヤぁ・・・いったいぁぁい・・・」
 
 
そのままの勢いでソファに座り、膝の上に乗せると、
ショートパンツを下ろし、下着を太腿まで下げる。
 
 
「亮くん・・・痛いのヤダ・・・」
 
 
恥ずかしいのか、白いお尻を必死で庇う姿がいじらしかったが、
 
 
「誰だって痛いのが好きな人はいません。でも、カナが悪い子だったんだから
 仕方ありませんね。手をどかしなさい。」
 
 
そう言うと、観念したのか、そっと両手を下ろし、今度はギュッと握っている。
 
 
「さあ、行きますよ。」
 
 
ピッシャ〜ン
ピッシャ〜ン
ピッシャ〜ン
 
 
「いったぁぁぁぁい!!うわ〜ん・・・りょうくん・・・」
 
 
パッシィーーン
パッシィーーン
パッシィーーン
 
 
「あぁぁぁん、いったぁぁぁい!!」
 
 
身体をくねらせ、足をバタバタさせて膝から逃げようとする腰をしっかり元に戻し、
更に、お尻を庇おうとする手を背中に捩じ上げて叩く。
 
 
パッシィーーン
パッシィーーン
パッシィーーン
 
 
「まったく、あんな危ない運転して、事故でも起こしたらどうするつもりですか??」
 
「だってぇ・・・」
 
「だってじゃありません。事故起こしてからでは、遅いんですよ!!」
 
「いたぁぁぁい」
 
「加害者になっても、被害者になっても、たくさんの人が不幸になるんです!!」
 
 
パッシィーーン
パッシィーーン
パッシィーーン
 
 
 
「もう、二度としませんね??」
 
「しません・・・」
 
「だったら、言うことがあるでしょう??」
 
「ごめんなさぁぁぁい!!」
 
「本当にもうしませんね??」
 
「しません・・・」
 
「約束できますか??」
 
「できます・・・グスっ・・・」
 
 
 
メソメソ泣いてるカナを抱き起こし、ギュッと抱きしめる。
身体が熱いのは、一生懸命お仕置きに堪えていた証拠ですね。
 
 
 
「よく頑張りました。お仕置きは終わりです。痛かったですか??」
 
「うん、すっごく痛かった・・・危ない運転してごめんなさい。」
 
「わかってくれたら、それでいいんですよ。」
 
「りょうくん・・・もう、怒ってない??」
 
「あはは。怒っていませんよ。」
 
「よかった・・・だって、すっごく怖かったんだもん。」
 
「貴女が危ないことするからでしょう??」
 
「もう、しません。指きりげんまん。」
 
 
 
照れくさそうに微笑んで、カナは左手の小指を立てた。
それに僕の小指を絡めながら、
 
 
 
「今日は、一日中、カナが事故でも起こしたらと思うと、心配で心配で気が気じゃありませんでしたよ。
 もう、あんな運転して、僕に心配かけないでくださいね。寿命が10年縮まりました。」
 
「はい。でも、心配してくれてうれしい。だから・・・また心配かけちゃおうかな。」
 
「こらっ、そんなことしたらまた膝の上ですよ。そして、今度はお道具でお仕置きです。」
 
「お道具はイヤ・・・」
 
「だったら、よい子にしてましょう。それと、メイクは家でゆっくりするものですよ。」
 
「亮くんに言われると何だか照れちゃう・・・」
 
「あはは。カナはメイクしなくてもかわいいですけどね。」
 
「うん・・ありがと。ねぇ、亮くん・・・お願いがあるの・・・」
 
「うん??なんですか??」
 
「あのね・・・もう一回抱っこして。」
 
「あはは。、甘えん坊ですね、カナは。」
 
 
 
やわらかい身体をギュッと抱きしめる。
 
貴女が望むなら、何度でも抱きしめてあげます。
そう・・・何度でも・・・飽きるまで・・・
 
 
 
「そういえば、お腹空きましたね。」
 
「お尻痛いし、お仕置き頑張ったご褒美に、お夕飯、亮くんが作って。」
 
「わかりました。今日は特別にね。」
 
 
 
それから、久しぶりにグラタンを作った。
でも、やっぱり、カナの作ったグラタンのほうが美味しいですね。
 
 
料理が上手で器用で、ほんわかしてかわいくて、ときどき僕をハラハラさせる・・・
 
そんな貴女が大好きです。
 
だから、危ないことはしないでくださいね。
 
約束ですよ。
 
破ったら、本当に針千本ですから。
 
 
僕のスィートエンジェル。
 
 
 
 
 
 
END
 
 
 
 
Nina拝
 
 
 
 

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