執事とお嬢様 \
「今週の金曜日、職場の同僚が遊びに来たいって言うんだけど、大丈夫か??」
 
「金曜日??大丈夫よ。」
 
「みんな、紗雪の手料理が食べたいそうだ。」
 
「手料理??ダメよ、まだ人様に食べていただけるほど上手くないわ。」
 
「あはは、近頃はずい分と腕を上げたから期待してるよ。」
 
「そんなぁ・・・まだ全然ダメなのに。。。」
 
「いつもの通りでいいんだ。頼んだよ。」
 
 
そう言って、晃彦さんは私の頭をポンポンと撫でた。
 
 
 
 
 
 
 
               執事とお嬢様 \
 
 
 
 
 
 
お金のこともそうだったけど、今まで、お掃除や洗濯、もちろんお料理もやったことがなかった。
 
それが、当たり前だと思ってた。
 
みんな、佳代さんや新堂さんがやってくれていたから。
 
でも、それは違うって結婚してはじめて気付いた。
 
今は代わりにやってくれる人は誰もいない。
何でも、自分でやらなきゃ。。。
 
晃彦さんの奥さんになったんだもん。
 
 
それにしても、最初はひどかったわ。
 
お茶なんて淹れたことないから、お茶の葉をそのまま湯呑み茶碗に入れてお湯を注いで
しまったり、パスタだって、茹でたのを水にさらしてしまったり。。。
 
お料理の本に載ってるようにできなくて、悲しくなってメソメソ泣いていて、
帰宅した晃彦さんをびっくりさせたり。。。
 
今から思うと、冷や汗が出るようなことばかりやってた。
 
最初のころに比べれば少しはよくなったけど、晃彦さんが言うほど上達してない。
 
なのに、お友達に手料理を振舞いたいなんて、どこのだんな様もそうなのかしら。
 
 
あれから色々考えてお料理の本も何冊も買ってしまったけど、何をどれだけ作っていいか
見当もつかない。
 
そうだ!!
 
新堂さんにお願いしたら素敵なおもてなしメニューを考えてくれるわ、きっと。
 
 
すぐに実家に電話した。
新堂さんは喜んで来てくれたわ。
たくさんの食材を持って。
 
 
「さあ、お嬢様も手伝ってください。」
 
「もちろんよ。」
 
 
そう言ったけど、私の出番なんて全くない。
 
結局、何もしないうちに、どんどん完成してテーブルの上は高級店みたいに
素晴らしいお料理がいっぱい。
 
でも、これ、どうやったって私が作れるものじゃない。。。
 
新堂さんは手早く片付けると、
 
 
「何かあったら、いつでも呼んでください。私はお嬢様のお抱えシェフですから。」
 
 
そう言って、ニコニコ帰って行った。
 
 
もうちょっと簡単なものでよかったのに。。。
どうしよう。。。私が作ったなんて言えない。
 
でも、全部新堂さんが作ったなんてもっと言えない。。。
 
 
しばらく考えて思いついた。
 
 
怪我したことにして、「仕方なく」新堂さんを呼んだことにしようって。
 
 
左手の親指に包帯を巻く。
ちょっと大袈裟かしら。。。まぁ、いいわ。
 
 
 
それから少しして、7時を過ぎた頃、晃彦さんがお友達を3人連れて帰ってきた。
 
 
みんな、テーブルの料理を見て、目をまるくしていた。
 
 
「すごい!!まるで高級料理店だな。」
 
「東城は毎日こんな料理食べてるのか??」
 
 
なんて。
 
 
残念ながら手を怪我してしまって、私の手料理ではないことを告げても、
お友達はとてもよろこんでくれた。
 
お酒も入って陽気になって、みんな上機嫌で帰っていった。
 
 
「はぁ。。。」
 
 
ホッとしてつい洩れてしまった溜息。
 
テーブルを片付けていると、晃彦さんが声を掛ける。
 
 
「お疲れ様。今日はありがとう、みんな喜んでたよ。」
 
「手料理を振舞えなくてごめんなさい。今度はかならず。。」
 
 
言いかけた私の左手首を晃彦さんは不意に掴む。
 
 
「なにするの??放して!!」
 
 
私の言葉を無視して、無言でクルクルと親指に巻かれた包帯を
解いていく。
 
 
「いや〜ん、やめて!!」
 
 
思わずギュっと目をつぶる。
 
 
そして、とうとう最後のひと巻きが、はらりと床に落ちた。
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
そこには、小さなキズひとつなかった。
 
 
「やっぱり。。。」
 
 
そう言うと、晃彦さんは呆れたような大きな溜息を吐いた。
 
イタズラがバレた子供みたいにバツが悪くて、晃彦さんのお顔がまともに見れない。
 
ごめんなさい。。。そう言おうと思った瞬間、腰を抱えらると、
スカートが捲り上げられ下着に手が掛かった。
 
横抱きにされた段階で、何をされるのかは想像がつく。
 
咄嗟に、
 
 
「イヤ!!お尻はイヤぁぁぁぁ!!」
 
 
お尻に手を回して必死に抵抗したけど、力で敵うワケがない。
 
何だか、結婚してまでもこんなことされてる自分が思いっきり情けなくなってきた。
 
どうしていつもこんなことになるの。
 
後ろに回したお手手を背中にねじ上げられ、下着が下ろされて痛いのがお尻に降ってきた。
 
 
パッシィィィィィン!!
パッシィィィィィン!!
パッシィィィィィン!!
パッシィィィィィン!!
 
 
少し叩かれたあと、リビングまで手を引かれ連れてこられると、
ソファに膝立ちして待っているように言われた。
 
そういえば、ずっと前、こんな姿勢で藤崎さんにお仕置きされたことがあったわ。
夏休みの宿題、他人のをそのまま写して叱られてケインでたっぷり。。。
 
ケ、ケイン。。。??
 
何だか、イヤな予感が頭を過ぎる。
まさか。。。
 
少しして戻ってきた晃彦さんに手には、見覚えのある柄の黒い棒が握られていた。
 
予感が的中して、思わず洩れる小さな悲鳴。
 
 
「あ〜ん、それイヤぁぁぁ!!」
 
 
ソファから降りようとした私を元の姿勢に戻すと、
 
 
「こんなこともあろうかと、藤崎さんから預かってきた。」
 
「ひどいわ、隠し持ってたなんて。」
 
「ひどいのはどっちだ??こんな姑息な手に引っかかると思うか??」
 
「だって。。。紗雪が悪いんじゃない。晃彦さんがいけないのよ。」
 
「そうか、よーくわかった。自分のことは棚に上げてひとのせいにするような
 悪い子はこれからたっぷり泣いてもらうから。」
 
 
怖いことを言うと、スカートが捲られてきっと薄っすら赤くなってるお尻に冷たいケインが当てられた。
 
 
ソファの背もたれをギュっと握る。
 
 
パッシィィィーーーン!!
ピッシィィィーーーン!!
パッシィィィーーーン!!
 
 
「うわ〜ん!!ごめんなさぁぁぁぁい!!」
 
「謝っても簡単には許さないよ。」
 
 
パッシィィィーーーン!!
ピッシィィィーーーン!!
パッシィィィーーーン!!
 
 
「痛ったぁぁぁぁい!!もういいーー。ケインはイヤーーーン!!」
 
 
そのままソファから降りて、傍にあったクッションを晃彦さん目がけて
思いっきり投げつけると寝室に逃げ込みベッドに潜り込んだ。
 
 
涙がどんどんあふれてくる。
 
 
少しすると、足音が聞こえて晃彦さんが寝室のドアを開け入ってきた。
 
ベッドの端に座ると、
 
 
「どうした??そんなに痛かったか??」
 
「。。。」
 
「黙ってちゃわからない。ちゃんと話してくれないと。」
 
 
てっきり、布団をめくられてまたお尻ペンされると思ったのに、いったいどうしたの??
急に優しくなって。。。
 
 
「あのね、お料理の本とか、何冊も買ってみたけど、何をどれだけ作っていいか
 全然わからなくて。。。それで、新堂さんに教えてもらおうと思ったの。
 そしたら、新堂さん、すっごく張り切っちゃって紗雪が何もしないうちに
 お料理が次々と完成して。。。」
 
「それで、手を怪我したことにしたってワケか。」
 
「うん。。。」
 
 
晃彦さんは、布団から起き上がった私の頭をポンポンと優しく撫でてくれた。
 
 
「まだね、お料理、お客様にお出しできるほど自信ないの。。。」
 
「そうか。オレも悪かったな、ごめんな。」
 
「うん。。。今度はちゃんとおもてなしできるように頑張る♪」
 
「楽しみにしてるよ。」
 
 
晃彦さんの手にケインがないことを確認してから、
 
 
「もう、お尻ペンしない??」
 
「紗雪の言い分はわかった。でも、だからと言って仮病使うことはいいことか??
 それに、さっきクッション投げつけたよな。」
 
「ウソも方便。。。だもん。それに。。。」
 
 
言いかけた途端、膝の上に引っ張り上げられて痛いのいっぱい!!
 
 
「もう、こんな子供じみた嘘はつくんじゃない、それと、今度モノを投げたら
 藤崎さんに頼んでイヤというほどお仕置きしてもらうから。いいね、約束だよ。」
 
「はい、約束します。」
 
「よし、いい子だ。」
 
「ねぇ、いつになったらお尻ぺんから卒業できるの??」
 
「さあな。紗雪がいい子になれば卒業できるよ。」
 
「何だか、まだまだ卒業できないようなイジワルな言い方。」
 
「ははは。紗雪はやんちゃミセスだからなぁ、卒業はまだまだ無理かなぁ。」
 
 
ひどいわ、笑って。
 
今に見てなさいよ。
びっくりするような素敵な若マダムになってみせるから。
 
晃彦さんは何かに思いを馳せているように、
 
 
「なあ、紗雪、思ってたことなんだけど、お屋敷に戻るか??」
 
「えっ、どうして??」
 
「その方が紗雪にとっていいんじゃないかって思ってさ。」
 
「いいの??戻っていいの??」
 
「ああ、その方がみんな幸せだと思う。」
 
「やったぁ〜〜〜、ありがとう、晃彦さん大好きよ。」
 
 
首に抱き付いてほほに何度もキスをした。
 
うれしい、お屋敷に帰れる。。。
藤崎さんや佳代さんとまたいっしょに暮らせるんだわ。
 
はしゃぎ喜ぶ私の傍で電話が鳴った。
寝室に響くベルの音。
 
受話器を取る晃彦さん。
 
 
「はい、わかりました。すぐに向かいます。」
 
 
深刻な様子で受話器置くと、
 
 
「藤崎さんが、倒れたそうだ。」
 
 
その言葉に全身の血が逆流するような衝撃を感じ、
私はしばらくその場を動くことができなかった。
 
 
 
 
 
END
 
 
Nina拝
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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