Neo 執事とお嬢様  カナ編
 
 
 
お嬢様、カナお嬢様・・・お目覚めのお時間ですよ。
 
今朝は、お嬢様のお好きなフレンチトーストをご用意いたしました。
 
 
おはよう・・・う〜ん、フレンチ・・・トースト・・・??
 
 
長い茶色の髪をかき揚げながら、ベッドの中で大きく伸びをしている、
白いレースのネグリジェに身を包んだ天使のようなこの方が、私のご主人様。
 
 
はい、お嬢さまのお好きなメープルシロップたっぷりのフレンチトーストです。
 
 
わぁ〜
 
 
ベッドから飛び起きて、屈託のない最上級の笑顔で
 
 
おはよう、博人♪
 
おはようございます、カナお嬢様。
 
 
お嬢様を起こすのは、食べ物で釣るのが一番ですね。
 
 
さあ、一日の始まりですよ。
 
 
 
 
 
 
 
              Neo 執事とお嬢様  カナ編
 
 
 
 
 
私がこのお屋敷に執事見習いとしてお世話になってから、早10年の月日が流れ、
今では、一切を任される一人前の執事となった。
 
当時、10歳だったお嬢様は20歳の大学生になり、私が身の回りのお世話をしている。
 
のんびり大らかにお育ちのカナお嬢様は、財閥の令嬢には珍しく、自然をこよなく愛す
飾らないステキな女性へと成長された。
 
ただ、おっとりしたご性格はそのまま・・・
 
それが良いと言えば良いのですが・・・
 
 
 
「ごちそうさま。とっても美味しかった。明日もフレンチトーストがいいな♪」
 
「かしこまりました。明日はフルーツをたくさん添えたフレンチトーストにいたしましょう。」
 
「わぁ〜、博人、大好き♪」
 
「ありがとうございます。」
 
 
 
屈託のない笑顔で言われたら、こちらがメロメロになってしまいそうです。
甘い甘いメイプルシロップのようなお嬢様。
 
 
「さて、今夜はレンブラントホテルでチャリティパーティがあるのをお忘れではございませんね。」
 
「はい、大丈夫よ。夕方には帰るから。」
 
「ドレスコードはブラックタイ。お仕度に少々お時間が掛かります。遅れませんように。」
 
「大丈夫、ちゃんと時間には帰ります。」
 
「それでは、行ってらっしゃいませ。」
 
「行ってきます、博人。」
 
 
 
そう言って、いつものハグをして、学校にお出かけになられたから、安心していたのに・・・
夕方5時を回っも、お嬢様はお帰りにならない。
 
何度携帯で呼び出しても、なしのつぶて。
まったく・・・旦那様が多額の出資をなさっている大事なパーティだというのに・・・
 
何時戻るかと、首を長くして待っているのに、時間は6時を過ぎてしまった。
パーティは7時から・・・もう、間に合わない。
 
 
仕方ありませんね・・・
 
 
ドタキャンがどれくらい迷惑が掛かるか百も承知だが、急な体調不良を理由に
主催者側に連絡を入れる。
 
 
まったく・・・あれだけ言っておいたのに、帰ったらイヤをいうほど、お仕置きですね。
 
 
それからも、待てど暮らせど戻らず、時はすでに10時を回り、さすがに何かあったのかと心配になる。
結局、門限ギリギリの11時前になってやっと帰っていらした。
 
 
「今まで、どこに行っていたのです。」
 
「えっとね・・・真希さんが急に具合が悪くなって・・・ううん、レポートが・・・」
 
 
シドロモドロで、どうも的を得ない。
 
 
「今日は大事なチャリティ・パーティーがあり、夕方には帰るとお約束したことをお忘れですか??」
 
「・・・」
 
「黙ってるってことは、わかっててワザ≠ニ帰らなかったということでしょうか??」

「博人・・・怒ってる??」
 
 
今にも泣き出しそうに瞳を潤ませて、私を上目使いに見上げてくる。
 
おお・・・そんな天使の眼差しで見つめられたら、叱れなくなってしまうじゃないですか・・・

ここは心を鬼にして、
 
 
「もちろん、怒っていますよ。それも、かなり。」
 
 
「ごめんなさい・・・」
 
「先回りして謝ってもダメです。大事なパーティをすっぽかしておしまいになったのですよ。
 どれだけの方にご迷惑をお掛けしたか・・・さあ、しっかり反省していただきましょう。」
 
 
腕を掴んで引き寄せようとすると、身体に力を込めて断固として動こうとしない。
 
 
「う〜ん、素直にできないってことは、相当厳しくされるのも覚悟の上・・・ってことですね。」
 
「ち・・ちがうわ・・」
 
「何が違うのですか。」
 
「・・・」
 
 
黙ってしまったお嬢様を、ふいに肩に担ぎ上げる。
 
足をバタバタさせ暴れるのをしっかり押さえ、執務室まで連れてくると、
そのまま、黒い革張りのソファに左足を掛け、その上にお嬢様をのせる。
 
 
「イヤぁ〜、博人、イヤぁ〜〜!!」
 
「イヤじゃないでしょう??ご自分が仕出かしたことをよーく考えなさい。」
 
「だって・・・」
 
 
ふわっとしたスカートを捲り、下着を下ろすと、右手を振り上げた。
 
 
パッシィィィーーーン!!
パッシィィィーーーン!!
パッシィィィーーーン!!
 
 
「あ〜ん、いったーーい!!」
 
「まだ、お仕置きははじまったばかりですよ。」
 
 
パッシィィィーーーン!!
パッシィィィーーーン!!
パッシィィィーーーン!!
 
 
「だってぇ・・・痛いものは痛いもーーん!!」
 
「そんな口が聞けるということは、反省してないってことですね。」
 
 
足をバタバタさせ、後ろに回してお尻を庇おうとする右手を背中に捩じ上げ、
手を振り下ろす。
 
 
 
パッシィィィーーーン!!
パッシィィィーーーン!!
パッシィィィーーーン!!
 
 
 
「ひろと・・・いったいぁぁーーい!!もう、いやぁぁぁぁ・・・」
 
「嫌でも、しっかり反省していただきます。」
 
 
 
パッシィィィーーーン!!
パッシィィィーーーン!!
パッシィィィーーーン!!
 
 
 
「何故、約束を破ったりしたのです??」
 
「・・・・」
 
 
お尻は相当痛いはずなのに、見掛けによらず強情なお嬢様は、貝のように口を閉ざして
私の問いに答えようとしない。
 
仕方ない・・・
 
 
「言えないのなら、言えるようにして差し上げましょう。」
 
そのあとは、手加減なしの平手を連打。
 
 
 
パッシィィィーーーン!!
パッシィィィーーーン!!
パッシィィィーーーン!!
パッシィィィーーーン!!
パッシィィィーーーン!!
パッシィィィーーーン!!
 
 
これにはさすがに堪えたのか、お嬢様は「ごめんなさい」を繰り返す。
 
 
「うわ〜〜ん!!、ごめんなさーーーい!!ごめん・・・なさい・・・」
 
「何がごめんなさいなのです??」
 
「約束破ったからぁ・・・」
 
「では、約束を破ったワケをちゃんと話してくださいますね。」
 
 
長い髪で見えないが、こっくりと頷くお嬢様を下ろしソファに座らせる。
 
 
「さあ、これを。」
 
「ありがとう。」
 
 
柔らかいクッションを差し出すと、照れくさいのか、小さな声で言った。
 
 
「もう一度訊きますよ。どうして、約束を破り大事なパーティをすっぽかしておしまいになったのですか??」
 
「行きたく・・・なかったの・・・たくさんのセレブが集まるパーティ、苦手なんだもん・・」
 
「どうして苦手なのか、ご自分でおわかりになりますか??」
 
「博人、怒らないで聞いて。あのね・・・どんな風に振舞ったらいいか、わからないの・・・会話もすぐに途切れてしまって・・・」
 
「なるほど。ですが、苦手だからといって避けていては、いつまで経ってもパーティを楽しむことはできませんよ。」
 
「わかってるけど・・・」
 
 
お嬢様は自信がなさそうに、がっくりと項垂れる。
それが可愛らしくて、クスッ・・・思わず笑みがこぼれてしまいそうになる。
 
それを、咳払いでごまかして、
 
 
「大丈夫ですよ。そんなに深刻にお考えにならなくても。お嬢様には私が付いているのですから。」
 
「ほんとう??私でも、パーティで楽しめる??みんなのように楽しく素敵に振る舞える??」
 
「もちろんです。大事なのはスマイル。周りの誰もが癒されてしまうような自然なほほえみです。」
 
「自然な微笑み・・・??」
 
「そうです。ご自分をよく見せようとなさなずに、今のままのお嬢様でよいのです。
 マナーやプロトコルは必要ですが、大事なのは自然体でいること。わかりますか??」
 
「自然体・・・う〜ん、よくわからない。」
 
「自然体とは、内面と外面が一致していること。わかりやすく言うと本音と建前が
ない状態のことです。もっと簡単に言うと、感情と態度が同じであること。」
 
「それなら、わかる。でも、不安・・・」
 
「では、これからお嬢様が出席なさるパーティには私がお供いたしましょう。」
 
「ほんとう??本当に博人が一緒に来てくれるの??」
 
「はい、カバリエとしてしっかりエスコートさせていただきます。」
 
「わ〜、博人が一緒なら早くパーティに行きたくなってきちゃった♪」
 
「あはは。現金ですね、お嬢様は。その代わり、教えた通りに振る舞えなかったら、
 帰ってからみっちりお尻です。」
 
「それ・・・イヤ・・・」
 
 
首をすくめて言う。
 
何も心配することなどありません。
私がおそばにいて、しっかりお守りいたします。
 
それが、執事の役目ですから。
 
 
「さて、まだ許していませんよ。」
 
「えっ〜、まだお尻叩くの??」
 
「いいえ。私の目を見て、博人、ごめんなさい。いい子になります≠アれを、10回言ってください。」
 
「どうしても、言わないとダメ??」
 
「ダメです。」
 
 
お嬢様はモジモジしていらしたが、諦めたのか、幾分小さな声で、
 
 
「博人、ごめんなさい。いい子になります。博人、ごめんなさい。いい子になります。・・・・・・・・」
 
「ちゃんと、私の目を見て。」
 
「はい・・・博人、ごめんなさい。いい子になります・・・」
 
 
10回言う頃には、すっかり涙目になられて、言い終わった途端に、
私に抱きついてくる。
 
 
「うわ〜ん、博人〜〜、ごめんなさ〜い!!」
 
「わかってくれたら、それでいいのですよ。」
 
 
ちょっと、イジワルが過ぎましたかね。
素直なお嬢様が可愛らしくて、ついつい構いたくなってしまうのです。
 
そんな私の気持ちも知らずに、
 
 
「ねえ、博人・・・いつまでお尻ぺんするの??」
 
「お嬢様は女の子ですからね。悪い子のときはお尻です。」
 
「もう、二十歳なのに・・・」
 
「二十歳であろうと、30歳になろうと、悪いことをなさったときは、いつでもお尻です。」
 
「そんなのイヤ・・・」
 
 
くちびるを尖らせ、拗ねたご様子のお嬢様を膝に乗せ、そのまま抱き上げる。
 
 
「わっ、どこに行くの??」
 
「さあ、どこでしょう??」
 
「ねぇ、博人・・・ずっと、カナのそばにいてくれる??」
 
「もちろん、ずっとおそばにおります。そして、お守りいたします。」
 
「うん・・・」
 
 
照れくさそうにしながら、首に両手を回してくるお嬢様が可愛くて可愛くて・・・
 
このままでは、私はすっかり骨抜きにされてしまいそうです。
そのまま、ダイニングの椅子まで連れてくると、お尻が痛まないように、そっとチェアーに下ろす。
 
 
「博人??」
 
「パーティからご帰宅したら、ご褒美にお出ししようと用意してありましたが、どこかの困ったお方が
 大事なパーティをすっぽかしておしまいになられましたからね。ですが、今夜は特別です。」
 
 
そう言って、用意してあったケーキをお出しする。
アッサムといっしょに。
 
 
「ザッハ・トルテでございます。」
 
「わぁ〜美味しそう〜♪博人、大好き♪」
 
 
その笑顔・・・まるで、春風が吹き抜けるように心地よい微笑み。
 
パーティでその笑顔が自然と出せれば、みんなお嬢様の虜≠ナすよ。
たくさんのセレブが回りに集まってきます・・・貴女に魅せられて。
 
そして、やっぱり食べ物で釣るのが一番のようですね。
甘いものを召し上がっているお嬢様が一番素敵です。
 
それを独り占めできるのは、執事である私だけの特権ですね。
 
いつまでもお守りしますよ。
結婚してミセスになり、やがて、マダムと呼ばれるようになっても。
 
もちろん、悪い子のときはお尻≠ナす。
 
 
 
 
END
 
 
 
 
Nina拝
 
  

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