はいから令嬢カナの日常
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「カナさん、今日はずいぶんと急いでいるのね。」
 
「大好きな家庭教師の先生がお見えになる日なの。」
 
「帝大の助教授だって言う。。。??」
 
「ええ、クッキーを焼いてお待ちしたいから、お先に失礼するわ。
 たくさん焼くから、明日もえさんも味見してみて。」
 
「楽しみにしてるわ。ごきげんよう♪」
 
「ごきげんよう。」
 
 
女学校の正門を出ると、待っていたお抱え車夫の順平に手を引かれ、
力車に乗り込む。
 
 
「順平さん、お屋敷まで急いでくださいな。」
 
「承知しました。お嬢様、しっかりつかまってて下さいよ。」
 
 
 
時はは大正、伝統とモダンが共存し、夢が現実となる帝都東京。
 
秋の空はどこまでも高く、抜けるような青が果てしなく広がる。
 
駆け出す力車はカナ嬢の笑顔を載せて、目白にある有森伯爵邸へと 
向かって颯爽と走りだす。
 
 
    
 
 
 
         はいから令嬢カナの日常
 
 
 
 
「お帰りなさいませ、カナお嬢様。」
 
両側に並ぶたくさんの使用人の中を笑顔でただいま≠言いながら通り抜けると、
階段を上がり二階の部屋に向かう。
 
臙脂の袴を脱いで、フリルの付いた白いエプロンをつけ、後ろで蝶々結びにすると
鏡を見てにっこり。
 
大正浪漫のモダンな着物に白いエプロンがよく似合う。
まるで、最近流行り出したカフェーの可愛いウエートレスのよう。
 
そこへ、ノックの音。
 
 
「カナさん、お帰りなさい。お久しぶり。」
 
「好希お姉さまぁ。いつお戻りになったの??たしか、一年振りよ。」
 
「旦那さまがね、たまには実家のご両親に顔を見せてあげなさいって、休暇をくれたの。」
 
「わぁ〜、ではしばらく居られるのね。お話ししたいことがたくさんあるの。」
 
「ええ、あとでたくさん聞くわ。それより、エプロンなんかして何をするつもり??」
 
「今日ね、大好きな先生がいらしゃっるから、クッキーを焼いてお出しするの。」
 
「もしかして、その先生に恋してるとか??」
 
「やだぁ、お姉さま。。。」
 
「まぁ、図星ね。」
 
 
春希はカナの実の姉で1年前、同じ華族の子爵家へ嫁いでいた。
 
カナは意気揚々と厨房へ入ると、お粉をふるいにかけたり、牛乳を出したり、
手際よく作業していく。
 
生地を捏ねて、型を取ってオープンに入れて焼いたら出来上がり。
甘い香りが厨房に広がる。
 
そして、お待ちかねの先生がやって来た。
 
彼の名は九堂昌也。
若干27歳で東京帝国大学助教授の肩書きを持つ、白皙の美青年。
 
 
「こんにちは、カナさん。今日はエプロンなんかしてどうしたんです??」
 
「ごきげんよう、先生。クッキーを焼いていたのよ。今、お持ちするから
 お待ちになって。」
 
「クッキーはあとで頂きますよ。先に勉強です。」
 
「は、はい。。。」
 
 
カナはエプロンをとって、テーブルに本を置く。
 
 
「さて、シェークスピアについて勉強してきましたが、先週は四大悲劇について
 学びましたね。まず、四大悲劇、すべて答えていただきましょう。」
 
「四大悲劇。。。??えっと。。。ロミオとジュリエットとリア王と。。。」
 
「ロミオとジュリエットは四大悲劇に含まれません。先週勉強したでしょう??」
 
 
クッキーを焼いておもてなししようと、そればっかりを考えていて
復習なんかちっともやってなかった。
 
 
「先生、シェークスピアよりシャーロックホームズのお話がいいわ。
 今日はそれにして。」
 
「カナさん、今はシェークスピアの勉強をしてるんです。」
 
「でも。。。ホームズの推理の方が楽しいもの。ねっ、先生、ホームズのお話にしましょう。
 ねぇ、いいでしょう??」
 
 
九堂は小さく溜息を吐くと、
 
 
「どうやら僕が甘すぎたようですね。こんなわがままになってしまうとは。
 立ってテーブルに手を付きなさい。」
 
「えっ。。。??」
 
「聞えませんでしたか??言うことが聞けないなら力ずくですよ。」
 
 
キョトンとしているカナの手首を掴んで立たせると、テーブルに手を付かせる
姿勢にして、着物の裾を捲り上げる。
 
薄紅色の襦袢の裾も一緒に。。。
 
 
「イヤ。。。何をなさるの??」
 
「きちんと授業も受けられない悪い子はたっぷり懲らしめなければ。」
 
「イヤよ、はなして。」
 
 
逃げようとするけれど、九堂が左手で腰をしっかり抑えているので
動きが取れない。
 
そして、剥き出しになった白いお尻に、
 
パッシィィーーン
パッシィィーーン
パッシィィーーン
パッシィィーーン
パッシィィーーン
 
パッシィィーーン
パッシィィーーン
パッシィィーーン
パッシィィーーン
パッシィィーーン
 
 
痛いのが10回。
 
 
痛いやら恥ずかしいやらで、泣き出してしまうカナ。
 
そんなカナの着物の裾を直して椅子に座らせると、あごに手を添えて
上を向かせ、優しくお説教。
 
 
「僕は遊びでカナさんに勉強を教えているわけではありません。
 伯爵家のご令嬢の家庭教師として、十分なお給金もいただいています。
 やる気がないのなら、僕がここに来る必要はありません。」
 
「ごめんなさい。。。悪ふざけが過ぎました。」
 
「これからはちゃんと授業を受けられますね。いい付けも守れますね。」
 
「はい。。。これからはちゃんとお勉強します。」
 
「では、これから復習するにシェークスピアの四大悲劇を来週までにきちんと攫っておくように。」
 
 
ちなみに、四代悲劇とは「ハムレット」「マクベス」「リア王」「オセロ」。
しっかり復習してお勉強の時間はお終いになった。
 
 
そのあと、カナが精魂込めて焼いたクッキーと紅茶を頂きながら、
 
 
「私、あんな風に叱られたの初めてよ。とっても痛かったし、恥ずかしかったわ。。。」
 
「カナさんがあまりにも悪ふざけが過ぎたからですよ。」
 
「先生。。。カナのこと嫌いになった??」
 
「あはは、そんなことはありませんよ。ただし、態度が良くなかったらまたお尻です。」
 
「もうイヤよ。。。今日の先生は意地悪だわ。」
 
 
ぷくっと頬を膨らませて横を向く仕草は、まだまだあどけない少女のまま。
 
 
「ところで、カナさんのお手製のクッキー、とっても美味しいです。」
 
「ほんとう??」
 
「ええ、本当です。それとエプロン姿、とても可愛かったですよ。」
 
 
その一言で、ぱぁ〜と花が咲いたように明るい表状になるカナ。
 
そのはにかんだ愛くるしい笑顔を九堂は愛おしそうにずっと眺めていた。
 
 
その夜、カナと春希は明け方まで九堂先生のお話で花が咲き、
メイドが何度起こすも、甘い甘い夢の中。。。
 
 
「いや〜ん、もうこんな時間??急がないと遅刻だわ。」
 
 
臙脂の袴に赤いリボン、慌てて支度して仕上げに鏡の前でにっこり。
 
 
「順平さん、学校まで超特急でお願いね。」
 
「承知しました!!」
 
 
そして、授業開始の鐘と同時に到着。
 
 
「おはよう、カナさん、クッキーは上手く焼けて??」
 
「ええ、持ってきたから休み時間にいただきましょう。」
 
「ありがとう、楽しみだわ。」
 
「あっ、もえさん。先生にクッキー美味しいって褒められたの。エプロン姿も可愛いって♪」
 
「よかったわね〜、あとでお話きかせて。」
 
 
 
恋に勉強にお話に忙しい、はいから令嬢カナの楽しい日々は続く。
 
帝都は今日も抜けるような青空が美しい。
 
 
 
 
END
 
Nina拝
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  

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