脱スィーツ計画
 
 
 
  
 
 
最近、京子の様子がおかしい。
いつもなら、美味しそうにご飯を食べるのに
2・3日前から食欲がないのか、食事を残している。
 
それだけならまだしも、あれだけ毎日食べていた甘いものも
ほとんど食べていない。
 
今夜も、小さな茶碗によそったご飯を半分ほど食べると
箸を置いてしまった。
 
 
 
「ごちそうさま」
 
「どうしました??もういらないんですか??」
 
「うん、もういいの。」
 
「もういいって、半分しか食べてないじゃないですか。」
 
「でも、いいの。」
 
「よくありませんよ。どこか具合でも悪いんですか??」
 
 
 
手を伸ばして額に手を当ててみたが熱はない。
特に体調が悪いようには見えないが、やはり食べないのは気になる。
 
 
 
「ううん、どこも悪くなんかないよ。」
 
「じゃあ、どうして食べないんです??」
 
「あのね、ダイエット始めたの。」
 
「ダイエット??」
 
「うん。最近ね、お夕飯のあと、甘いものを食べるのがクセになってて
 ちょっと太ってきちゃったから。」
 
 
 
あらためて彼女を見たが、太っているとは到底思えない。
だから、正直な気持ちを言ったつもりだった。
 
 
 
「気にするほど太ってないじゃないですか??ダイエットなんか必要ありませんよ。」
 
「もう、恭介は女心がわからないんだから・・・もっとスリムになって綺麗になりたいの。
 痩せてほっそりしたら大人に見えるでしょう??」
 
 
 
確かに、体重が落ちれば頬も身体もスッキリして大人に見えるかもしれない。
だが、実年齢よりかなり若く見えるのが彼女の魅力でもある。
 
 
 
 
「そうですか。僕は今の京子が可愛くて好きですけどねぇ。
 それに、痩せたいなら、ご飯を食べないなんてことはしないで
 運動したほうがいいんじゃないんですか?」
 
「運動なんて絶対ムリ。「脱スィーツ計画」を実行して、さらにご飯を減らしたら
 効果が倍増すると思って。」
 
 
確かに理屈としてはそうだが、それはキチンと実行できたらの話。
 
それに、ダイエットは今までも何度か挑戦してはいたが
いつも途中で挫折してしまって、満足のいく結果が得られたのは皆無だった。
 
だから、今回もどうせ何日かすれが諦めるだろう・・・
それくらい軽く考えていた。
ただ、食べないのは体によくないので、
 
 
 
「無理はしないでくださいね。」
 
 
 
そこのところは良く言って聞かせた。

ところが。。。
 
 
 
 
 
 
数日経った夕食時。
我慢してろくに口をつけなかった夕食を、ダイエットを始める前と同じように
食べているのを見て心の中で、
 
やっぱり今回も、3日坊主で終わってしまいましたね。
思った通りでした。
 
内心、ホッとしてはいたが、取り合えず確認も兼ねて聞いてみた。
 
 
 
「あれ、ダイエットはもう止めたんですか?」
 
「ううん、やんてなんかないよ。」
 
 
 
てっきり、もうやめたの・・って返事を想像していたのに・・というか
期待していたのに予想とは違う答えが返ってきた。
そして、食事が済むとガサゴソ取り出したのは何かの薬かと思える錠剤。
 
まさかとは思いますが・・・
 
 
 
「まさか、それって痩せる薬じゃないでしょうね?」
 
「当たり。さすが恭介、よくわかったね。これね、1ヶ月で4キロくらい痩せるんだって。
 すごいでしょ?それもご飯普通に食べてていいんだよ。」
 
 
 
何の不安気もなくケロッと言う京子に大きな溜め息が出た。
いったい何を考えてるんだか・・・
 
 
 
「京子、いつからそんな薬飲んでるんです?そんなワケのわからない薬飲んで
 何かあったらどうするつもりですか?」
 
「大丈夫だよ、雑誌に載ってたんだから。」
 
「脱スィーツ計画はどうしたんですか??痩せたいなら薬に頼らなくても
 方法は色々あるでしょう??」
 
「そうだけど・・・」
 
 
 
 
思いっきり嫌そうな顔をして不貞腐れてるのを構わず、
薬の全てを持ってこさせると、大量の錠剤が出てきた。
 
 
 
 
「いったいこれでいくらしたんですか?」
 
「・・・」
 
 
黙ってるってことは、相当な金額なんですね。
 
 
 
「京子、正直に言いなさい。これ全部でいくらしたんです?」
 
「2ヶ月分で4万8千円・・・」
 
「4万8千円??」
 
 
 
これにはさすがにびっくりした。
そして、ひどく目眩がした。
どんしてこんなものを買ってしまうんだか・・・
 
 
 
「京子、必要なものなら買ってもかまいません。でもこの薬は本当に必要なものですか?」
 
「だって、運動なんてできないし、甘いもの我慢するなんてやっぱり無理だもん。
 薬飲むしかないでしょ。」
 
 
 
まったく、どういう理由だか・・・
だいたい努力もしないで、安易に薬に頼ろうとする気持ちが許せません。
 
 
 
「そもそも楽して痩せようなんて考えが甘いんです。こんな薬、二度と飲まないように
 取り上げです。いいですね!!」
 
「あ〜ん、何するの??せっかく今日届いたのにぃ。」
 
「今後、ダイエットは禁止します。太ってもないのにダイエットなんてする必要ありません。
 わかりましたね!」
 
 
未練がましい態度を無視して、箱ごと全部ゴミ箱に捨てた。
それでもグズグズ言うのを、何度も念を押してやっと納得させた。
 
 
 
 
 
 
 
それから暫くはダイエットは禁句になり平和な日々が続いていた。
すっかり諦めてくれたと思って安心していた矢先、
京子が毎日のように、夕食のあとゼリーを食べているのが気になった。
 
夕食のあとに甘いものを食べるのが習慣になっていたから
今まで気にならなかったのだが、さすがに毎日同じゼリーでは
不審に思わないほうがおかしい。
 
 
 
「京子、そのゼリーどうしたんですか?確か昨日も食べてましたよね?」
 
「えっ、別にただのゼリーだよ。」
 
 
 
様子を窺うために、何気なく言ったつもりだったが、
明らかに動揺してるのがわかった。
さては、何かありますね・・・
 
 
 
 
「毎日食べたくなるほど美味しいゼリーなら、僕にもくださいよ。」
 
「えっ(汗)、ダメ。」
 
「どうして?もうないんですか?」
 
「あるけどダメなの。」
 
「いいじゃないですか?僕にも味見させてくださいよ。」
 
 
どうも様子が変なので、キッチンへ行き冷蔵庫を開けてみると、
奥のちょっと見ずらいところから、イチゴ味やらマンゴー味のゼリーが入った箱が
見つかった。
 
 
 
 
 
「京子、いったいこんなにたくさんのゼリーどうしたんですか?」
 
「えっとね、友達からおみやげだってもらったの。」
 
「ウソじゃありませんよね?じゃ、その友達に電話して聞いてみましょう。」
 
 
 
 
ちょっと意地悪に言ったら、とたんにしどろもどろになりボロが出始めた。
それからはもう、こちらのペース。
 
 
 
「このゼリーはいったい何なんですか?」
 
「。。。」
 
 
 
まったく、都合が悪くなるとすぐ黙ってしまうんですから。
返答を待ちながら箱の中をよく見てみると、説明書が出てきて
それが痩せるゼリーであることがわかった。
 
大きな溜め息が出た。
この間、あれだけ言って聞かせたのに、またこんなものを買って。
いくら僕でも、二度目はないんですよ。
そこのところをよ〜くわからせないといけませんね。
 
 
 
 
「京子、こっちへ来なさい。」
 
 
 
嘘がバレて決まり悪そうに下を向いている京子の手を引き
リビングまで連れてきた。
 
 
 
「僕に内緒でまたこんなものを買っていたんですね。ダイエットは禁止したはずですよ。」
 
「だってね、早く痩せたかったんだもん。恭介だって私にもっと綺麗になって欲しいでしょう??」
 
「何度も言いますが今のままで充分です!痩せる必要はありません。」
 
「でも・・」
 
「でもなんです??口であれだけ言ってもわからないならお尻に教えるしかあり
ませんね。」
 
「やだ!」
 
「やだじゃありませんよ。ここへ来てお尻出しなさい。」
 
 
 
キツメに言ったが、一向に言うことを聞く様子がないので、
無理やり腕を掴んで膝の上に倒した。
 
 
「ヤダヤダヤダぁーー!放して!いや〜ん。」
 
 
 
足をバタバタさせて暴れる京子の腰をしっかり押さえて
ジーンズを下着といっしょに一気に下ろす。
必死で真っ白いお尻を庇おうとする手を左手で押さえ込んで
右、左、真ん中と振り上げた手を落とした。
 
パシ〜ン、ピシャ〜ン、ぺシ〜ん
 
「いたっ!!痛いってば。」
 
「痛いのはあたり前です。言うことを聞かないあなたが悪いんでしょう?」
 
ペッシィィィーーン!!パッシィィィーーン!!ペッチィィィーーン!!
 
「まったく、あれほど言ったのにワケのわからないゼリーなんか買って!!」
 
ペッシィィィーーン!!パッシィィィーーン!!ペッチィィィーーン!!
 
「1度ならず2度までも。それも僕に内緒で高いお金払って。」
 
ペッシィィィーーン!!パッシィィィーーン!!ペッチィィィーーン!!
 
「うわ〜ん、だって、無理なく痩せるって書いてあったんだもん。」
 
「それが本当なら誰も苦労しません。」
 
「もう二度と買わないと約束できますか?」
 
 
 
お尻は真っ赤に腫れて相当痛いはずなのに無言の返事・・・
いったい、いつまで強情張ってるつもりなんだか・・・
 
 
 
「わかりました。貴女がそんな態度なら仕方ありません。」
 
 
 
そう言って、テーブルの上にたまたま置いてあった、製図用のスケールを取った。
冷たいスケールが腫れたお尻に当てられて、
京子はこれから何をされるか、わかったのだろう。
 
 
「イヤーーーーん!!」
 
 
今まで以上に暴れ出す。
そして、手を後ろに回して、必死でお尻を庇いはじめた。
少しかわいそうに思ったが、ここで許してしまっては
また、同じことをやりかねない。
 
ここは心を鬼にしてしかっり叱らなければ・・・
そう思いながら、スケールを振り上げた。
 
 
ピッシャァァァァァーーーン!!
 
 
 
「うわ〜ん、いった〜〜い!!」
 
 
ピッシャァァァァァーーン!!
 
 
「もうやだぁ!! もう買ったりしないからぁ・・・ごめんなさ〜い!!」
 
 
パッシィィィィィーーーン!!
 
 
「本当ですね。今度こそちゃんと約束できますね。」
 
 
パッシィィィィィーーーン!!
 
 
「ごめんなさ〜い、約束する・・・約束するからぁ〜」
 
 
 
 
やっとその口から「ごめんなさい」が出た。
やれやれ、やっと言えましたね。
しかし、この一言を引き出すために毎回どれくらい苦労してるんだか。
 
 
 
「ところで京子、どうしてそんなに痩せたいんですか?何か理由でも?」
 
「前、恭介の同僚の写真、見せてもらったことがあったでしょう??
 みんな、綺麗で大人だったんだもん。だから。。。」
 
 
 
何だ、会社の同僚に焼きもち妬いてたってことですか。
それを聞いて、クスクス。。。可笑しさが込み上げてきた。
嬉しさと言ったほうがいいかもしれない。
 
 
 
「あはははっ、京子は以外と焼きもち妬きなんですね。」
 
「そんなに笑うなんてひどいよ。真剣に痩せたかったのに・・・」
 
「僕は貴女以外の女性は目に入りません。誰よりも貴女が一番です。」
 
「どんなにわがまましても?」
 
「はい」
 
「やんちゃしても?」
 
「もちろん」
 
「悪い子でも?」
 
「そのときはお尻ぺんです。」
 
「お尻ペンはいらな〜い」
 
 
 
 
そう言って、勢いよく首に飛びついてくる。
お尻と同じようにほっぺも赤く染めて、さっき泣いた鴉がもう笑って。
ホント、いつもながら現金なんですから。
 
 
 
「京子、本気で痩せたいなら、『脱スィーツ計画』を実行したほうが
 やはり効果的面だと思いますよ。」
 
「だって、甘いものやめられないもん。」
 
「急には無理ですから、少しずつ頑張りましょう。僕も協力しますから。」
 
「ホント??」
 
「もちろん、痩せたいっていう恋人の願いを叶えるのも僕の役目です。」
 
「うん、恭介が手伝ってくれたら今度こそ痩せられそう。」
 
「でしょう??ちょっとした魔法を使えば、甘いものなんてすぐやめられますよ
。」
 
「魔法??」
 
「はい、僕に隠れて甘いものを食べたら、お仕置きという魔法をかけてあげます
。」
 
「・・・・」
 
 
 
そんな恨めしげな目で睨まないでくださいよ。
京子が頑張る分、僕も禁煙しますから・・・
貴女だけに我慢はさせません。
 
 
 
「ただし、安易に薬に頼るダイエットは今後も禁止です。
 今度、約束破ったら、1ヵ月抱っこ禁止の上、はじめからスケールでお仕置きです。
 いいですね。」
 
「はい。」
 
 
念には念を押した。
しかし、叱られても叱られても、次から次へと色々仕出かして・・・
僕に叱られて膝の上で泣きながら「ごめんなさい」を言うのに
しばらくするとコロっと忘れてしまうんですから。
 
僕が甘いのかなぁ。。。
 
でもね、約束破ったり危ない真似をしたら、いつでもお尻を痛くしてあげます。
これも僕の「愛」だと貴女はわかっているんでしょうか。
 
不安だなぁ。。。
 
 
 
 
 
 
 
END
 
 
 
Y'z氏の「脱カロリーメイト計画」からヒントを得て♪
 
 
 
 
Nina拝
 
 
 

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