執事とお嬢様 夏休み編
「ねえ、紗雪さん、いいものがあるの。」
 
「いいもの??」
 
「夏休みの課題にスペイン語の小説の全訳があったでしょう??」
 
「ええ、200ページ近くあるのに、まだ30ページも終わってなくて・・・」
 
「でしょう??それでね、これ。」
 
「あら??これって、全く同じ小説の課題??」
 
「そう、スペイン語の先生、他の大学でも同じ課題だしていて、友達から借りたの。
 見て、完璧な訳でしょう??」
 
「すご〜い!!」
 
「これを写せば、課題ひとつクリア♪」
 
「でも、亜希子さん・・・それってよくないわ。」
 
「何言ってるの??背に腹は変えられないでしょう??」
 
「そうだけど・・・」
 
 
 
 
 
 
 
 
                              執事とお嬢様
 夏休み編
 
 
 
 
 
 
 
 
 
今年の夏は異常に暑く、勉強していてもどこか集中できなくて、
気が付けば、終わっていない課題が山積み・・・
 
大学生になってまで、課題に苦しめられるなんて思いもしなかった。
しかも、高校のときのように付け焼刃でできるものなんて無いに等しいし・・・
 
 
 
「夏休みの課題は進んでいますか??」
 
 
 
藤崎さんから、そう聞かれる度に、「大丈夫よ」・・・なんてにっこり笑って言ってきたけど
今朝、朝食の席でそう聞かれたときには、正直、笑顔で「大丈夫よ」なんて言え
る状況ではなくなっていて、
 
 
 
「ええ・・・」
 
 
 
ちょっと困った顔で口ごもっていたら、
 
 
 
「あれだけ、『大丈夫です』って言っていらしたのですから、今更、やっていな
いなんて言わせませんよ。」
 
 
 
先に釘をさされてしまい、状況は更に悪化。
ほとんど、手を付けてない状態だなんて言ったら、お説教されて、お尻を痛くさ
れるに決まってる。
最近は、あの棒を使われるから怖くて怖くて・・・
 
 
食後のフルーツはお部屋に運んでと佳代さんに頼んで、ダイニングを後にしたけど
お部屋に戻っても、溜息が出るばかり。
こんなことなら、コンサートもクルージングも課題があらかた仕上がってから行
けばよかった。
今さら、悔やんでも遅いけど・・・
 
 
でもね、ひとつだけは終わってる。
一番大変で時間がかかるスペイン語小説の全訳。
いけないと思ったけど、亜希子さんの言う通り、背に腹は変えられなくて。
 
 
もちろん、写したことは誰にも言っていないわ。
藤崎さんに知られたら、きっとあの棒で叩かれるもん。
あんな痛い思いは二度とイヤ・・・思い出しただけでも、ぞっとする。
 
 
佳代さんが持って来てくれたパイナップルとオレンジを頂いた後、
気が進まなかったけど、中世芸能のレポートを書こうと思って机に向かっていたら、
携帯が鳴った。
 
 
晃彦さんからだった。
 
 
 
 
「今日、時間があったらウチに来ないか??これからチーズケーキを焼くから一
緒にどうかと思ってね。」
 
「チーズケーキ??もちろん行くわ♪」
 
「夏休みの課題、見てやるから勉強道具も持ってくるといい。」
 
 
 
 
やったぁ♪
お手製のチーズケーキも楽しみだったけど、
晃彦さんにお勉強を見てもらえるなんて今までなかったから、
とても嬉しくて、さっきまでの沈んだ気分は一気にどこかへ飛んで行った。
 
 
早速、支度をして、藤崎さんにお許しを頂いてから、運転手の水島さんに
晃彦さんのマンションまで送って頂いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「最近は、洋菓子作りにすっかりハマってしまってね。紗雪の口に合うといいん
だが・・・」
 
「しっとりしていてとても美味しい・・・アイスティーもケーキによく合ってるし、最高よ♪」
 
「それはよかった。」
 
 
 
 
ケーキを頂いて、少しお話したあと、お勉強を見てもらうことになった。
藤崎さんには、「大丈夫よ」なんて大きなこと言っていたけど、
さすがに晃彦さんには、ウソはつけなくて、ほとんど手付かず状態になっていることを
正直にお話した。
 
 
 
 
 
「さて、どれから手を付けたらいいものやら・・・」
 
 
課題のプリントに目を通しながら、
 
 
「この中ですでに終わってるものはある??」
 
 
そう聞かれたから、つい言ってしまった。
 
 
「あっ、ひとつだけ終わってる。スペイン語小説の全訳・・・」って・・・
 
 
 
 
決していい事をしたわけではなかったから・・・というか、
悪いコトだと分かっていたから、晃彦さんには黙っていようと思ったのに、口が
滑ってしまって。
言ってしまったあと、うっかりしたことに気付いたけど、
反応は思ったのとは違っていた。
 
 
 
 
 
「自分でやったのか??」
 
「う・・・ん・・・」
 
 
 
 
まさか、「写しました」なんて言えないから、曖昧にお返事したけど、
晃彦さんは、今までないくらいに喜んで、
 
 
 
 
「すごいじゃないか、大変だっただろう??紗雪もやればできるんだな。
 おひい様で人任せかと思っていたが、見直したよ、いい子だ。
 今度、何かご褒美あげなきゃな。」
 
 
 
 
満面の笑顔でそう言って、頭をポンポンってしてくれた。
でも、少しも嬉しくなかった。
だって、本当は自分でやったんじゃないんだもん・・・
写しただけなんだもん・・・
 
それどころか、褒められれば褒められるほど、罪悪感が重く圧し掛かってきて、
晃彦さんを騙しているようでとても辛くて、下を向いて唇をかんだ。
 
 
 
 
 
「どうした??元気がないな。」
 
「・・・・」
 
「課題だったら、手伝ってやるから心配はいらないよ。一緒に頑張ろう。」
 
「・・・そうじゃないの・・・」
 
「うん??そうじゃないって何が??」
 
「だからね・・・自分でやったんじゃないの・・・」
 
「・・・??言ってる意味がわからないが・・・」
 
「スペイン語の課題・・・自分でやったんじゃないの・・・」
 
「つまり・・・誰かのを写したってことか??」
 
 
 
 
 
お顔を見てキチンとお返事できなくて、下を向いたまま首を立てに降った。
そのとき、晃彦さんの呆れたような大きな溜息が聞こえた気がした。
 
ほんの数秒の沈黙が何分にも感じられて、心臓がドキドキ早鐘のように鳴る。
そして、少し淋しげな声でこう言った。
 
 
 
 
 
 
 
つづく
 
 
 
 
 
 
 
 
「そう・・・か・・正直に言えてえらかったね。でも、これはやってはいけないことなんだよ。」
 
「・・・わかってる、わかってるけど、課題がたくさんあり過ぎて、どれも終わ
ってないし、スペイン語が一番時間が
 掛かるし、大変なんだもん・・・だから・・」
 
「それは、紗雪だけが大変なわけじゃないだろう??みんな大変な思いをして頑張ってるんだ。
誰のためでもない、自分のためにね。」
 
「・・・」
 
「紗雪、課題はね、提出することが大事なんじゃない。自分で試行錯誤しながら
やるのが大事なんだ。
 楽をして身に付くものなんて何ひとつないんだよ。例え、それが、完璧じゃなくても
 自分で頑張ってやったことは、それだけで価値があるものなんだ。わかるね??」
 
「うん・・・」
 
 
 
 
そんな風に諭すように上から目線で言われたら、言い訳なんてできなかった。
私が、悪いんだもん。
弁解の余地なんて、少しもないんだもん。
 
 
 
 
「ごめんなさい・・・」
 
「素直に謝れていい子だな、おいで。」
 
 
 
 
そのまま、左手をつかまれて、腕の中に抱きしめられた。
爽やかなダージリンの香りが、麻薬みたいにほのかに胸に染み渡ってきて
一瞬、意識が飛びそうになる。
 
それもつかの間・・・
 
さっきまで、優しく髪を撫でてくれていた右手が、
スカートの裾に伸びる。
 
えっ??
 
って思ったときには、背中まで巻くりあげられていて、
これから何をされるのか、すぐにわかった。
首に回した腕をほどき、腕からすり抜けようとしたけど、ビクともしない。
 
 
 
 
「お尻・・・ぶつの??イヤぁ〜〜!!」
 
「可哀相だけど、今日はまだ許さない。しっかり反省しよう。」
 
 
 
 
抱きしめられた状態のまま、下着が下ろされて、そのままお尻を叩かれた。
今まで叱られたことはあったけれど、お尻を叩かれたことなんてなかったから
何だかとても恥ずかしい。
 
 
 
パッシィィーーーン!!
ピッシィィーーーン!!
パッチィィーーーン!!
 
 
 
「あ〜ん、痛い・・・」
 
「痛いのは当たり前だよ。とても悪い子だったからね。」
 
 
 
パッシィィーーーン!!
ピッシィィーーーン!!
パッチィィーーーン!!
 
 
 
「イヤ〜ン!!放して・・・放して・・・」
 
 
 
我慢していたけど、だんだん辛くなりじっとしていられなくなる。
晃彦さんは、そんな私を脇に抱えたまま、ソファに腰かけると膝に乗せ、
更に強い力で叩きはじめた。
 
 
 
ピッシィィィーーーン!!パッシィィィーーーン!!ピッシィィィーーーン!!
ピッシィィィーーーン!!パッシィィィーーーン!!ピッシィィィーーーン!!
ピッシィィィーーーン!!パッシィィィーーーン!!ピッシィィィーーーン!!
 
 
 
「うわ〜ん、ごめんなさい、ごめんなさい・・・・ごめんなさい・・・」
 
「ちゃんと反省した??もう二度としない??」
 
「はい・・・もう二度としないから・・・ちゃんと約束する・・・ごめんなさ〜い!!」
 
 
 
 
一生懸命謝ったのに、膝から下ろされたあとも、横抱きにされて
叩かれて・・・藤崎さんほど怖くはないけど、
 
鬼だ・・・このひと・・・
 
ってちょっとだけ思った。
 
 
 
 
 
「オレは、紗雪に安易な選択をして欲しくないんだ。それは、強い意志と勇気がいることだけどね。
 君ならできるよ、オレのかわいいスィートハートだからね。」
 
「うん、もう二度とこんなことはしない。時間が掛かっても自分でやります。」
 
「それがいい。もっと早くにオレに相談してくれればよかったのに。」
 
 
 
 
そう言って、笑いながらポッペを指でツンツンってされた。
そして、データが入ったUSBは取り上げられ、スペイン語の訳は全て消されてしまった。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、惜しい気もしたけど返って気持ちはスッキリ♪
 
 
 
 
「ところで、このこと、藤崎さんは知ってるのか??」
 
「知らないと思う・・・」
 
「知ってたら、とっくに叱られてるか。」
 
「どうしよう・・・他人のを写したなんて知られたら、絶対厳しくされる・・・」
 
 
 
 
そのとき、頭に中に例の棒が浮かんだ。
あの独特の弾けるようなイヤな音・・・
お尻に当たったときの、痛み・・・
思い出してたら、くらくらしてきた。
 
 
 
 
「おいおい、顔色が悪いな、大丈夫か??」
 
「お願い、晃彦さん、このことは藤崎さんには黙っていて・・・おねがい・・・」
 
「いや、黙ってるのはよくない。オレも一緒に謝るから、正直に話そう、なっ??」
 
「叱らないであげてください・・・って言ってくれる??」
 
「ああ。」
 
「約束してよ。」
 
「わかった、ちゃんと言うから安心しなさい。」
 
 
 
 
晃彦さんは、ニコニコしながら、いとも簡単にそう言ったけど、
藤崎さんのこと、よく知らないからそんなことが言えるんだわ。
 
晃彦さんの車の助手席で、外の景色を見ながら
一抹の不安は、どんどん膨らんで行った。
 
 
 
 
 
 
つづく
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「・・・で、私に話しとはいったい何です??」
 
「あの・・・あのね・・・課題・・・」
 
 
 
 
藤崎さんを目の前にすると、その存在感の大きさに圧倒されてしまう。
高い身長、無駄のない鍛え抜かれた身体・・・
 
きっと、若いころは、相当なハンサムだったってことは今の容貌からも、一目瞭然。
ううん、今でも、とても素敵な紳士・・・・
でも、その紳士を怒らせたら・・・
 
 
 
 
「ほらっ、大丈夫だから。」
 
 
 
 
晃彦さんが、横から小声で励ましてくれたけど、
怖くてなかなか言い出せない・・・
 
 
 
 
「課題がどうかしましたか??」
 
「それが・・・ね、ホントはね、ほとんど手をつけていないの・・・」
 
 
 
 
そのとき、辺りの空気が3℃くらい下がった気がした。
 
 
 
 
「そうですか。そんなことだろうと思いました。お忘れですか??今朝も言ったはずですよ。
 今更やっていないなんて、言わせません・・・と。」
 
「ごめんなさい・・・」
 
「ごめんなさいで済むなら、警察は要りません。」
 
「・・・」
 
「さあ、こちらへ来なさい。」
 
 
 
 
藤崎さんが、私の右手をつかもうとするのを、晃彦さんが止めた。
 
 
 
 
「待ってください。話はまだ終わってないんです。ほら、紗雪・・・」
 
「イヤ・・・やっぱり言いたくない・・・」
 
「こらっ、ちゃんと正直に話す約束だろ。」
 
 
 
 
まだ、肝心なことが言えてない・・・っていうか、言いたくない。
少女のころは、このままここから走って逃げて、お部屋に鍵かけて閉じ籠ったけど、
いっつも、合鍵で呆気なく開けられ、その後は・・・腫れるほどお尻叩かれて・・・
 
 
 
 
「どうした、紗雪・・・ちゃんと藤崎さんに話すんだ。」
 
「ス・・・スペイン語の課題・・・自分でやらないで、他人のを写し・・まし・・た・・」
 
 
 
 
しどろもどろに何とか言ったあと、晃彦さんの腕に縋り付いた。
彼は、「ちゃんと言えたね。」って言ってくれたけど、
目の前にいる、藤崎さんは無言のまま、表情も変えずに立っている。
 
 
 
 
「藤崎さん、このことについては、彼女から直接聞き、僕がしっかり叱りました。
 キチンと反省しています。どうか、叱らないでやってください。お願いします。」
 
 
 
 
深々と頭を下げる晃彦さん・・・
彼に、こんなことをさせている自分がとても惨めになった。
 
 
 
 
「晃彦さまのお願いと言えど、聞く訳には参りません。
 お嬢様、私は相当怒っています。覚悟なさい。」
 
 
 
 
いつもなら、「はい」ってお返事をして素直に従うのに、
今日は晃彦さんがいるからか、素直にできなかった。
晃彦さんの背中に隠れて、このままずっと駄々捏ねていられたらなぁ・・・って
妙な妄想をしたりしてた。
 
 
 
 
「藤崎さん、今日のところは僕に免じて許してやってもらえませんか。
 この通りです。」
 
 
 
 
晃彦さんが、もう一度藤崎さんに頼んでくれたけど、
案の定、答えはノー・・・
 
 
 
 
「何度、頭を下げられても、答えは同じです。お嬢様の躾は私の仕事ですから。
 さあ、いつまでも駄々捏ねていないで、私と一緒に来なさい。」
 
「はい・・・」
 
 
 
 
わがままも、もうココまで・・・
はい・・・ってお返事するしかなかった。
 
 
 
 
「紗雪・・・」
 
「いいの・・・悪いことしたの私だから・・・」
 
 
 
 
最近は、手を繋いでなんてくれなかったけど、私が逃げるのを懸念してか
藤崎さんは、大きな手で私の右手をしっかり握ってくれた。
サロンに残して来た、晃彦さんのことが気になったけど、
今はそんな状況じゃない・・・
 
 
下を向いて、無言のままついて行ったら、藤崎さんの足が止まった。
それは、執務室ではなく、大好きなおばあ様のプライベートルーム・・・
 
 
中に入れられてから、少し待たされた。
でも、このお部屋なら、大丈夫かも・・・なんて、ちょっと期待していたら
戻ってきた藤崎さんを見て、絶句した。
 
右手には、例の細い撓る棒・・・確かケイン・・・って言ったかしら・・・
 
 
 
 
 
「さあ、はじめますよ。自分でお尻を出して、ソファの上に膝立ちしなさい。」
 
「自分で・・・お尻出すの??」
 
「当然です。それだけのことをしたのですから。」
 
「晃彦さんにもね、お尻叩かれたの・・・だから、あんまり厳しくしないで・・・」
 
「聞こえませんでしたか??私は自分でお尻を出しなさいと言ったんです。」
 
 
 
 
 
仕方なく、下着に手をかけて、足の付け根まで下ろし、
言われた通り、ソファに膝立ちする。
 
後ろでは、例のごとく、ヒュッヒュッと試振りをする音が聞こえて
怖さを紛らわすため、、ソファの背もたれにしっかりとしがみ付き、ギュッと目を閉じた。










つづく






 
 
 
 
 
「晃彦さまに叱られたようですから、ここでは、くどくど言うつもりはありません。
 ですが、いつも申し上げていますね。利己的で浅はかな行動は許しませんと。
 先日、あれだけ厳しくされていながら、また同じようなことをなさるとは、
 まったく、情けなくて涙がでます。しっかり反省しなさい。」
 
 
 
 
それだけ言うと、藤崎さんは、スカートを捲り上げた。
付け根まで下げた下着を、更に太腿まで下げる。
 
晃彦さんに、結構きつく叩かれたから、それなりに腫れていると思うけど、
何も言わず、ケインがお尻に当てられた。
 
ヒュゥゥッ!!と音がして、
 
 
ピッシィィィーーーン!!!
 
 
 
お尻にしびれるような痛みが降ってくる。
痛い・・・逃げ出したいくらい痛い・・・
でも、必死で我慢した。
 
駄々捏ねて、余計に叩かれるのが怖かったし、何より、ちゃんと反省してることを
わかって欲しかったから。
 
 
 
ピッシィィィーーーン!!!
ピッシィィィーーーン!!!
ピッシィィィーーーン!!!
 
 
 
「いたーーーい!!もうイヤ・・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
 
 
 
でも、連打されたらもうアウト。
ソファの上に座り込んで、お尻を押さえる。
でも、藤崎さんは待ってはくれなかった。
 
元の姿勢に戻されて、お尻にケインが当てられる。
 
 
 
 
ピッシィィィーーーン!!!
ピッシィィィーーーン!!!
ピッシィィィーーーン!!!
 
 
 
「いたぁーーーい!!あ〜ん、もうしないから・・・ごめんなさ〜〜い!!」
 
 
 
 
もう、限界よ。
必死で我慢していた反動からか、そのときすっかり張り詰めていた糸が切れてしまって
とうとうソファの上から逃げ出し、お部屋の隅にうずくまった。
 
 
藤崎さんの足音が近づいてきて、止まる。
また、腕をつかまれてソファに連れ戻されると思ったのに、
片膝をついて、さっきまでケインを持っていた手が優しく背中に触れる。
 
 
 
 
「お嬢様、若者は決して、安全な株を買ってはなりません。
 いついかなるときでも、誘惑に負けず自分を律することができて、はじめて自
らに自信が持てるのです。
 二度と安易な行動を取って、私や晃彦さまを悲しませることのないように。わ
かりましたね。」
 
「はい・・・もう二度としません。藤崎さ〜ん、ごめんなさい・・・」
 
「わかってくれたら、それでいいんですよ。」
 
 
 
 
それから、立たされて、壁に手を付かされて痛いの10回。
それで、許してもらえた。
 
 
 
 
「さて、もう夏休みも残り少なくなってきました。課題が終わるまでは原則として
 外出は禁止です。私の目を盗んでこっそり抜け出そうなんて真似はなさいませんように。」
 
「は、はい・・・」
 
 
 
 
叱ったあとも、しっかり釘を刺しておくことを決して忘れない・・・
それだけ言って、藤崎さんはお尻を冷やすタオルを取りに行ったのか、部屋を出ていった。
 
 
ふわふわのベッドに横になっていたら、いつの間にかウトウトしてしまって・・・
気が付いたら、晃彦さんがベッドの端に座り、お尻を冷やしてくれていた。
 
 
 
 
「大丈夫か??」
 
「大丈夫じゃないわ・・・叱られないようにちゃんと頼んでくれるって約束したのに・・・ウソつき・・」
 
 
 
 
悪態がつきたくて、ちょっと拗ねた顔で言った。
そしたら、苦笑しながら
 
 
 
 
「ははは。わるかった。藤崎さんは器が2枚も3枚も上手だよ。」
 
「どういう意味??」
 
「言葉通りの意味さ。」
 
「そういえば、晃彦さんに言われたのと同じようなこと、藤崎さんも言ってたわ。
 若者は決して、安全な株を買ってはならない・・・って。」
 
「なるほど。コクトーの引用か・・・さすがだな。」
 
「コクトーって??」
 
「フランスの詩人であり画家だ。」
 
「そう・・・聞いたことないけど・・・」
 
 
 
 
晃彦さんは、窓の外の揺れる木を見ながら、思うところがあるのか、
しばらく遠い目をしていた。
でも、私の方に振り向くと、クスクス笑いながら、
 
 
 
「しかし、お尻出したまま寝てしまうのは、本当だったんだな。」
 
 
 
急にそんなこと言うから、何だか一気に恥ずかしくなって、柔らかいシーツでお尻を隠した。
 
 
 
「もしかして、私のこと、子供扱いしてる??」
 
「大学生になってもお尻叩かれてる子は、子供じゃないのか??
オレの膝の上で、泣きながらごめんなさいを言う紗雪も可愛かったよ。」
 
 
 
 
癪に障るけど、頭をポンポンって撫でられるのが好きだから、
いいわ・・・からかわれても、許してあげる。
 
 
 
 
「さあて、取り合えず明日から課題頑張らないとな。しっかり見てやってくれって
 藤崎さんにも頼まれたし・・・」
 
「ホント??じゃあ、毎日来てくれるの??外出禁止なんだもん・・・」
 
「時間の許す限り、寄らせてもらうよ。」
 
 
 
たくさん叱られて、お尻も痛くされたけど、
お蔭でもやもやが吹っ切れて、スッキリした。
山になった課題も、頑張れる気がする・・・
 
 
そして、二人の言う通り、安易な行動は二度としないと心に誓った。
今度こそ、いい子になって、お仕置きから卒業するんだって・・・
 
 
できるかな・・・できるよね・・・きっと・・・
怖いお目付役が二人もいるんだもん。
 
 
いつかきっと、素敵な大人になって、二人を驚かせてやるんだから・・・
 
 
 
 
 
 
END
 





 
Nina拝
 
 
 
 
 
 
 

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